足熱図鑑

エッセイ

わ!

 例えば「i」だ。iMac、iBook、iモード、iアプリ…。あるいは「e」。eメール、eビジネス、eコマース…。
 4対3で「i」の勝ち、ではない。「i」がいったい何という語の頭文字から来ているのか、といった知識が問題なのでもない。「i」が、たとえ「インガベレキネステイティッド」(スペルは各自考えるように)の頭文字であったとしても構わない、という点にこそ、真の問題は潜んでいるだろう。
 ある日誰かが、「インガベレキネステイティッド」(あるいはまあ、「インターネット」)を「i」の1文字にジャンプさせたのだった。その見事な手つきの前で、われわれはもはや「iを付けりゃいいんじゃないか」としか考えられなくなっている。付けるのは、たった1文字だけだ。何に付けようと、いくら付けようと短く、じゃまにならない。「i ゴム」はなぜか魅力的だし、「e シャツ」は、どこか抜本的に着こなせそうですらある。
 基本的に構造を同じくするはずの「セ」と「パ」はしかし、「セリーグ」と「パリーグ」以外に広まることはなかった。そこから読みとるべきは、やはりアルファベットでなければならない、ということだろうか。
 「J」を見てみよう。「Jリーグ」にはじまり、「J-POP」へと流れをつないだ「J」は、けれどもこれまた、どこか底の浅さを感じさせるのだった。「JAPAN」であることが明らかな上に、そもそも「ジャパン」と「ジェイ」であまり短縮されてもいない、そうしたあたりが敗因だろうか。それとも?
 アルファベット1文字をアタマに付けるステータスはすでに、その起爆力を失っているのかも知れない。おそらく、その方向での新規開拓は望み薄だろう。ためしに新たなアルファベット1文字を思い浮かべてみればいい。「d」であれ「n」であれ、それはなぜか、すでに手垢がついて見える。
活路を見いだすとすれば、「文章」かも知れない。単語ではなく、文章の頭文字をとって省略する。例えば次のような文章は、まだまだ起爆力を持つだろう。
 「わ! 名前はまだ無い。」
 いや、これをどう活用すればいいんだか、考えもないのだけれど。

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