足熱図鑑

エッセイ

移動することの誘惑

 「電車のIT革命」を謳って、JR東日本が次世代型電車の開発に乗り出すことになったらしい。車内に情報通信網(LAN)を張り巡らし、座席でインターネットを使えるようにするもので、人呼んで「IT電車」である。
 初乗り運賃の切符を買って山手線に乗り込み、そのままぐるぐる回っていれば一日使い放題のネット料金が130円かとか、そういった連想しか浮かばない私というのもあれだが、しかしなんだな、一ヶ月それをやったとすれば3900円か。全然安くないじゃないか。しかも一日中、山手線だ。朝夕は混む。テレホタイムは走ってない。いや、テレホタイムとかは関係ないが。
 さてこのIT電車、抽象的なレベルでもってつらつら考えていけば、そこには相対性理論ともだぶらせることが可能であるような難解さが覗けてくる。そもそも、世界から「距離」の概念を奪い取るものこそがインターネットだったのではなかったか。どこにいても同じであるという、いわば「光速で移動する物体」のような臨界に達しつつ、人はなおも(あるいは、それでも)「移動」するのだった。電車で。いったい彼はどこへ向かおうというのか。「巣鴨」か? いや、そういう話じゃないが、うん、何の話だ?

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