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May.
2007
Yellow

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/ 11 May. 2007 (Fri.) 「きつねそば」

芍薬。

猫。

朝は立ち喰いそば屋できつねそばを食べた。
立川駅の改札口は地上二階にあたり、ホームへはそこから階段を下りる。改札口と同じ高さにある二階のフロアにも立ち喰いそばを供する大きめの店舗があるが、いきなりなことを言わせてもらえばそこはだめだ。比較にならぬほどの差をつけてうまいのが、看板に「奥多摩そば」と謳って階下のホームに店を構えるそば屋のほうであり、私はそこでたいてい「かけそば」か「きつねそば」を注文する。店に貼られているポスターを信じるならば名物は「おでんそば」だそうだがいまだ注文したことはないし、きっと注文することはないだろう。しかし、おそらくはその「おでんそば」だってきっとおいしいのだろうと想像させるほどにそこのかけそばときつねそばはうまい。いま、おすすめの立ち喰いそば店をひとつ教えろと万が一にも私にそう詰め寄る者があれば、迷わずにここを挙げるだろう。こんなことを書いているのはむろん、数日前に宮沢さんが「日本でいちばん美味しい立ち食いそば」のことを書いていたことに触発されてのことであって、そこで用いられている「日本一」の恣意性からすれば私だってこの「奥多摩そば」をそのように呼んでやりたくもなるものの、ただ、奥多摩そばの「日本一」をはばんで、私の記憶のなかにはとある立ち喰いそば屋が存在する。
「記憶のなかの」と言うのは、その店がいまもってそこで営まれているのかどうか、まったく消息を知らぬようになってもう十年以上が経ち、おそらくはきっともうないんじゃないかと想像するのだが、その立ち喰いそば屋は小山駅(栃木県)にあった。利用したのはたしか数度だ。隣県である栃木に電車通学していた高校時分、その土曜日の帰路、ターミナル駅である小山でローカル線とローカル線とを乗り継ぐために待ち合わせが下手をすると1時間近くあるというようなそうした昼下がりである。小山駅を知る者らにことわっておけばホームの、キヨスクと背中合わせのあそこじゃあない。私もはじめ、あそこしか知らず、あそこを利用していたのだけれど、あるときいっしょに帰っていた上山君に「そんなものを食べるんじゃない」とばかりに諭され、「こっちで食べろ」と教えられたのが駅構内にあるまた別の立ち喰いそば屋だ。上山君が力説する「ホームのそば屋とのちがい」はなによりもまず衛生面にあって、発着する電車の粉塵にさらされているホームの環境が問題外であることに加えて(ちなみに前述の立川駅の場合、ホームにあるとはいえカウンターは三方のドアに囲まれて〈外〉から守られているが、小山駅のそれは直接〈外〉に面していた)、ホームの店は支払いが現金で、調理者でもあるおばちゃんが直接それを扱うという点でも不衛生であるのに対し、いっぽうの店は食券制によってそこを回避しているのだと上山君は私が考えてもみなかった側面を鋭く指摘する。そしてまあ、断然うまかったのだ。関西風ということなのだろうが、つゆの色は衝撃的なまでにうすく、しかしダシのしっかりと利いた味で飲ませる。もう十年以上も前の、たぶんに神格化されてしまっている味の記憶を前に立川駅の奥多摩そばは敗れるのだったが、さて、これでもし、上山君が「そんなことあったっけ?」とでも言おうものなら私はかなり驚くぞ。

本日の参照画像
(2007年5月13日 16:39)

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