/ 1 Apr. 2009 (Wed.) 「春の嵐」
■また日記がずいぶんと滞ってしまった。「素人の乱」の松本
〈3月8日〉
宮先(雅之)さんの個展へ、笠木(泉)さん、(鈴木)謙一さんと。宮先さんに会うのはこれがはじめてだ。と言ったら笠木さんに驚かれたが、そうなのである。
じつのところ「絵を観る」という行為があまり得手ではないわたしだが、連れのふたりにも助けられ、愉しく、おだやかな時間を過ごす。ま、なにより絵がよかった。笠木さんが主宰する「アデュー」の第一回公演のために描かれ、チラシなどに使われた絵の原画もそのなかにあって、それを前にしてわたしは、「これ、どことなく七夕っぽいよね」と前々から思っていたことを何気なくぽろっと口にしたが、予期せず、「どこが?」という強い反応が連れのふたりから返ってきてひるむ。面白がった宮先さんは「七夕ではないですね」ときっぱり言い、さらには「七夕っぽくだけはしてくれるなっていうオーダーだったんで…」と悔しさをにじませた。
ところでその帰り道だったか、「わたしはむかし、文学少女ならぬ文学史少女だった」という笠木さんの告白があって、つまり、学校の国語教材のなかでもとりわけ文学史の資料集的な本が当時の笠木さんの心を捉え、それを熟読していたという話だけれど、そこに載っていた近代日本文学の作家たちの顔のなかで、唯一、生理的に受け入れられなかった顔というのが横光利一のそれだったという。
〈3月9日〉
「グローカル研究の可能性—社会的・文化的な対称性の回復に向けて—」と題された公開シンポジウムが成城大学であり、それには小田亮さんや中沢新一さんが出るというから、平日ではあるもののここはひとつ万難を排して途中からでも駆けつけようと考えていたけれど、けっきょく行くことができなかった。
いや、だから「行っていない」のであって、そのことを報告されてもなあという声はもっともなところだが、つまりその、いま思い出しても悔やまれるということだ。行きたかったよ。
〈3月11日〉
鍼治療へ行く。
〈3月13日〉
高山(玲子)さんの新作映画の上映会へ。新作『Pimple Traveling』(「Pimple」はニキビ、吹き出物の意)のほか、旧作の『聖歌隊物語』と『漫画家の話』も併映されたが、どれも今回が初見。『聖歌隊物語』の抜群のおもしろさはなんだろうかこれは。
〈3月14日〉
伯父の法要。
〈3月15日〉
笠木さんの家におじゃまする。笠木さんが新しく買ったMacBookに、Parallels+Windows XPを入れようということで行ったのだったが、なぜかAirMac環境の整備とでも呼ぶべき作業に終始してその日はなにひとつ事が運ばず。
夜は遊園地再生事業団のミーティングに参加。
〈3月20日〉
ボクデスのライブを観る。
〈3月24日〉
遊園地再生事業団の「ミーティングの会」(そんな名称はないけど)の面々と、「座・高円寺」の見学会。いったいわたしが行ってどうしようというのか、という面がなくはないものの、せっかくの機会なので見学させていただく。門外漢にちかいわたしですら心を躍らせたくなる施設の充実ぶりと、なによりその真新しさであり、途中から、引っ越し先を探して不動産屋と物件を見て回っているような気分にもなったのは、なんでしょうかあれは。
〈3月28日〉
新・文芸坐で、『TOKYO!』と『トウキョウソナタ』の二本立て。どちらも初見。オムニバス作品である『TOKYO!』のうちの一本、レオス・カラックス監督の『メルド』がいいという評判はかねてから耳にし、けれどそれ以上のことは何も情報を持たぬまま観たのだけれど(というかわたし、『ポンヌフの恋人』も『ポーラX』も何も観てないんだけど)、いいっすね、これは。銀座を襲った「下水道の怪人」がふたたび地下に戻ろうとマンホールを開けるとき、専用の器具を使ったのには声を出して笑った。
『トウキョウソナタ』もすばらしかった。帰宅後、まず、妻をぎゅっとする。
〈3月29日〉
白水SのWさんの、新築のお宅におじゃまする。さらにそこからの流れで夜は、いとうせいこうさんのお宅で開かれていた花見の宴にもおじゃました。なにより特筆すべきは、いとうさんがわたしの顔を覚えていてくれたことだ(『トーキョー/不在/ハムレット』に関わる一年前、劇作家協会の主催するコント講座で、わたしはいとうさんの生徒だった)。珍しく〈パーティー精神〉的なものを発揮し、さまざまな輪に加わる。早々に酔っぱらいになっていた田中夢とふたり、けっきょく終電までいたのだった。
〈3月30日〉
ラドママプロデュースの舞台『メディア腐食』を観る。
とまあ、そういったような具合だが、まあその、ぜんぶ嘘である。
■どうも風邪をひいたらしく、鼻水がひどいのと、喉がおかしい。とりわけ喉の感じがあやしく、(「船が出るぞぉー」の調子で)「熱が出るぞぉー」という声を遠くに聞く思いがし、大事をとって早めに帰宅。豆板醤を使ってピリ辛にした煮込みうどんを作ってもらい、食べてすぐ寝た。
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