7
Jul.
2009
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/ 4 Jul. 2009 (Sat.) 「で、二日目も観た」

『プロセス太田省吾演劇論集』(而立書房)

行っちゃったね、行っちゃいましたねわたしは、新百合ヶ丘へ。むかし狛江に住んでいたときでさえたしかいっぺんも行ったことのなかった新百合ヶ丘に、この二週間ほどで四度も行っている。バランスってやつを考えればこの先もう一生行かなくていいのではないか、あるいは、七月はもっと「読売ランド前」などにも目を向けるべきではないかといったことはともかく、というわけで「地点」の、『あたしちゃん、行く先を言って太田省吾全テクストより行程2』、二日目を観る。「公開ゲネ」を含めれば三度目の鑑賞。
出来不出来といったことではなく、これはおそらく「何度も観るうちに」ってことじゃないかと思われるが、きょうはいよいよ、ラストに際してすこし泣きそうになったのだった。あるいは、はじめてきょうは客席の最後列から舞台を観たのだけど、そのことも関係しているかもしれない。公開ゲネのときには前から二列目、初日は最前列で観た。
(書いている現在では)公演日程も終了して、いまさらそれ言われてもなあということを書けば、この舞台はどちらかといえば(一回だけ観るのであれば)、なるべく客席の前方、できれば最前列で、間近に観たほうがいいと思う。ひとつには、そのほうがより舞台にたいして視野の届く範囲をせばめることができ、たとえばある瞬間、舞台上のあれこれの進行からはなれて、照明を浴びたコンクリートブロックのひとつをただぼんやり見つめているといったことが容易になるからだ──その瞬間はまったく至福の体験である。
そしてもうひとつ、役者を間近に観ることができるというのがもちろん最前列の大きな利点なのであるが、そうしてそれこそラスト、舞台最前面に並んで立つ役者たち(石田大さんなんか、ほんとでかいのである)を目前に観るとき、にもかかわらずその彼/彼女らがじつに小さな、遠くにある存在として目に映るということ、そこにこそ、おそらくこの舞台の妙味はあるのであって、最前列にいてなおその感覚がわれわれを襲うということに、ぜひ、おどろかされるべきなのである。
もちろん、わたしの観る目が舞台にたいしてそのように作用してしまうのには舞台外にある〈テクスト〉からの要請もあって、ちょうどせんだって読んだ太田省吾さんの文章(今回の舞台には使用されていない)が影響しているわけだが、「劇の症状」というその文章(もとは『飛翔と懸垂』[1975年]に所収)のなかで太田さんは、なぜ舞台上の俳優は大声でしゃべり、大仰な身ぶりをするのか、つまり「芝居はなぜ芝居じみているのか」について思考を展開し、つぎのように書くのだった。

 それは、単純なこと、おどろくほど単純な根拠によっている。わたしたちは、遠くの相手に向かってなにかをあらわそうとするときには、大声をはりあげ、大仰な身ぶりをしなければならない。それ以外に手がない。このことが〈大仰さ〉の理由なのだ。虫男という人間のあり方にとって、人と人との距離は遠い。私と他人、私と私の距離は遠いのだ。
太田省吾「劇の症状」『プロセス太田省吾演劇論集』p.39

 なかに出てくる「虫男」という物言いがすこし唐突かもしれないので補足すれば、それはその数ページ前に書かれる、こうした記述からつながっている。

 ひとりの男が落ちていた。
 自己看視の遠隔運動はつづいていた。抽象的生活がつづいた。だが、これ以上の高みはないと思われるほどのところまで昇りつめたときだった。ひとりの男が落ちていた。下界に豆粒ほどの男があった。生きもののようであるから小虫ほどのといった方がいいかもしれない。しかもそのわたしに似た男は居眠りしていた。そう見えた。なにか高尚なことについて考えていたのかもしれないのに、上空からは虫男。その頭脳と称するものが煩悶を抱いていると主張したところで、それはただじっとしていることであり、居眠りとどこに区別があるのか。おや、動いたな。手だ、手をあげているのだ。ああ、手かい、手をあげたのかい。おそろしいがそういうことだった。それは手をあげているということ、ただそれだけのことであった。どのようなことのためにあげたのか。崇高なもののため、叫ぶため、誰かを殴るため、頭のフケを落とすため、アクビをするため。見わけがつかぬ。
 朗らかだ。
 抽象的な考えはごく小さな具体をもって割れた。
 空虚といっていいほど晴れやかだ。
 この朗らかさ、晴れやかさが、はじめてわたしに劇的な論理へ手がかかったと思わせた。
 これからが劇だ。
同上、p30-31

 そして、『あたしちゃん、行く先を言って太田省吾全テクストより行程2』を観終わった際にもわれわれはまったく同じことを思わされ、震えるのである。ああ、まったくだ、「これからが劇」だ、と。

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本日の参照画像
(2009年7月 6日 12:23)

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