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Apr.
2010
Yellow

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/ 23 Apr. 2010 (Fri.) 「京都へとむかいつつ」

会場までの道に案内のために貼られた『原始人みたい』のチラシ。

花見にも行ったさ。

日付変わってきょう、24日はこれから京都へ行く。地点の『何も、誰も、どんなに巧みな物語も』を観に行くのだ。ジャン・ジュネの三つのテキスト(「アルベルト・ジャコメッティのアトリエ」「……という奇妙な単語」「シャティーラの四時間」)をもとに構成された舞台である。そのうちの「シャティーラの四時間」は、初夏には鵜飼哲さんの訳でインスクリプトから翻訳が出る予定とのことだが、現時点ではまだ日本語で読むことができない。また、鵜飼さんによるその初訳は『インパクション』という雑誌の51号(インパクト出版会、1988年)に載っているらしく、国会図書館などに行けば読めるはずだが、まあそれは行けばの話。
『インパクション』の古本があればとネットを探したが見つからず、さらに見て回るうちにやがて「JSTOR」というサイトに泳ぎ着いて、そこで英訳版の「Four Hours in Shatila」をダウンロード購入(12ドル/PDF、21ページ)した。で、そのPDFをもとに自力で訳したものがこちらだ。ほんとうは行くまでに全部訳したかったのだがそれはかなわず、途中までである。
京都では「谷川清次郎商店」というキセル専門店にも行く。おそらくそこでわたしは、キセルと煙草入れとを買うだろう。夜は児玉(悟之)宅に厄介になり、一泊して帰ってくる。児玉君といえば過日のこと、4月3日だが、児玉君の出演した舞台を観たのだ。児玉君とは同窓であるところの今野(裕一郎)が作・演出をつとめた、バストリオ第一回公演『原始人みたい』。その初日の昼の回を観た。
今野君からも「書けたら感想を」と言われているこの舞台のことを書こう書こうとしてはさまざまなことに取りまぎれ、いや、書かねば、書かねばとなお呪文のように唱えつづけてきたのが今年のわたしの四月だったと言っても過言ではないわけで、いま、満を持してそれを書くのだけれど、なにせわたしはきょう、これから児玉君の家に泊めてもらわねばならない身であるから、ちょっと、じゃあ、めったなことは書けないのではないかということはあるかもしれない。だから言わせてもらうなら、児玉君がとてもよかったのだ。
『原始人みたい』はいわば「今野君が帽子を脱ぐ物語」だったと、いま、わたしはそうまとめたい気分にかられている。比喩的な意味でも何でもなく、たんに劇中のどこか──終幕付近だと思うがどこだったのかははっきりわからない──で今野君がそれまでかぶっていた帽子を脱いだのであり、そしてなぜだかそのこと──ふと見ると今野君がいつの間にか帽子を脱いでいた、という気づき──が、ひどく感動的なものに思えたのである。劇をとおして、今野君は「演出席」とおぼしい長机にいて、演技エリアとはべつに設けられたそこで、「演出家」とされる役のセリフを発したり、ほか、舞台進行上の雑務をこなしたりする。そこを舞台の一部だとするならば、舞台上にはじめに現れたのも今野君だった。さあまもなく開演だろうかという雰囲気の場内に、まず入り口から今野君がひとり入ってきて、その演出席に座り、目の前に置かれたノートパソコンの画面に目を遣って何かを確認するようなしないような、場内の何かを確認するようなしないような動きを見せたあと、まず、かれは長机の上に置かれていたミネラルウォーターのペットボトルを掴むと、キャップを開け、ごくごくと飲んだのだ。そうして立ち上がると、ふたたびそれはどこか手持ち無沙汰そうな風体で、そのまま入り口のドアから出ていったのである。何しにきたんだ。まさに「水を飲みにきた」としか言いようがない事態がそこに出来してわたしは愉快な気分になったが、これだけでなく──前述のことはたんにほんとうに「たまたま」だったのかもしれないが──、『原始人みたい』が〈芝居のはじめかた〉について意識的だったのはあきらかである。やがて入ってきた役者陣たちは準備運動ふうの、〈開始前のあいまいな時間〉をつくるのだが、そのさい、客席に知った顔があれば声をかけるという手法がとられていた。「おお、ひさしぶり。来てくれたんや」と児玉君がかれ独特の、ごく自然な調子で旧友らしい客に話しかける。まあ、どうしたってそこに〈意図〉は感じてしまうものの、しかしそのときの児玉君は、その手法のなかで〈あたうかぎり自然だった〉と言うほかない態度で友に話しかけていた。けっして「これから劇をはじめます」というその言葉を発することなく、けれどそれが発せられたと等しい〈はじまりの時間〉をつくり出すこと、そこで企図されていたことはおそらくそうしたことだったのではないか。
と、ここで時間切れ。「今野君が帽子を脱ぐ物語」についてはまたあとで。ではまた、のちほど。

本日の参照画像
(2010年4月24日 13:28)

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