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Nov.
2010
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/ 27 Nov. 2010 (Sat.) 「まるいじかん」

映画館で『勝手にしやがれ』を観るのだと言うと、「わたしはあの鏡のシーンが好き」と妻。洗面所のシーンを指しての発言だったわけだが、「鏡のシーン」と言われればやはりこれを浮かべてしまうのが人情だ。「ああ、あれね」と応えて少しにやにやしていると、すごいことに、「ちがう、それじゃない。そんなシーンはない」と妻は言った。
というわけで、日比谷の TOHOシネマズ シャンテで12月17日まで開催される「『ゴダール・ソシアリスム』公開記念 ゴダール映画祭2010」の初日、初回11時からの『勝手にしやがれ』を観る。上映前には仏文学者・中条省平さんのトークがあった。そのトークだけでちょっと泣きそうになってしまったのはどうしたことか。
案の定、ジャン=ポール・ベルモンド気分になって映画館を出たわけだが、でも、どうしてそっちかなあ。たまにはジーン・セバーグ気分になって出てきてもいいのではないかと思うのだ。次の機会にはぜひ気をつけたい。髪がとても短くなった気分で劇場を出たいと思う。
つい親指で唇をなぞりたくなるのを自制しつつ、ベルモンド気分のまま京都へ。バストリオのパフォーマンス公演『まるいじかんとわたし』を観に行く。
客席にたいして横に細長く伸びた演技空間の中央にはテーブルと、イスが二脚。その左右で、同時に別々のエチュードが展開する。ひとつのエチュードがおよそ三分の長さで、中央のテーブルに置かれた三分計の砂時計が演者の手によってひっくり返されるたびに場面が変わり、あらたなエチュードが開始される。客席と演技空間とがごく近いので、左右で展開するエチュードを俯瞰的に見ることは基本的にできない。ばらばらに見えるエチュード──じっさいばらばらである──をつなぐ縦糸は、冒頭ちかくと終盤ちかくとに配置された、中央のテーブルで演じられる若い夫婦──今野(裕一郎)君と橋本(和加子)さんが演じる──の日常の断片である。とある書類に捺印しようとするが家にハンコがなく、24時間あいているという近所の百均ショップに買いに出掛けた夫が、買い物を済ませ、雨に濡れて帰ってくるまでのその時間に、世界のあらゆる場所で、ときを同じくしてさまざまなことが生起するという、そのなんでもない〈世界の同時性〉にこそ、この舞台は希望を見ようとする。
 いまこの時間にここにいるわたしは、あっちには存在できない。肯定するというのもおかしいくらいの、その自明すぎる事柄を肯定しようとするのがこの舞台であったならば、その夜べつの場所でべつの何かをし、舞台を観ることのなかった〈不在の観客〉もまたここでは無条件に肯定されている──その日、京都市左京区の一角に、そんな夜があったということだ。だからこそ逆に、本来いなくてもいいようなその場に、わたしはいたのかもしれない。
ところで、開演前のアナウンスで山村(麻由美)さんが間違え、「本日は『まるいじかん』にお越しいただき」と作品名を省略して口にしたことを、わたしは逆に「なるほどそういうことか」という思いで耳にしていたのだが、それもまた上に書いたような意味においてだ。舞台上にさまざまなかたちで提示されるのはあくまで「まるいじかん」なのであり、「わたし」とは、「あなた」でもあるところの観客ひとりひとり(不在の観客も含めたそれ)のことである──そして、〈作品〉としての『まるいじかんとわたし』は、その両者をつないだ全体=〈世界〉のことである──といった野心的な含意をそのアナウンスには聞いたのだったが、まあ、話によればたんに言い間違えただけらしい。
エチュードでは、小林(光春)君、児玉(悟之)君、魚谷(純平)君の三人による「はじめてのバッティングセンターで何度打ってもホームランになる人」と、あと、「熊」の遺影を手に今野君が葬式の挨拶をするやつがよかった。で、毎度の感想であれだが児玉君はやっぱりいいのだし、加えて今回は、稲森(明日香)さんに惹かれた。批評の言葉はもう放棄して、このさい「かわいい」ってことでどうでしょうか、稲森さんは。
「irishcream」(安食真/告鍬陽介)による衣裳もよかった。というか、はじめそのことを失念していて、「みんないい私服もってやがるな」と思って観ていたのだった。それほどによかった。
会場となった「Tranq Room」はそのギャラリースペースの階下にカフェも開いていて、打ち上げはその店で行われた。わたしもしばし同席する。いずれお開きとなれば全員がいったん児玉君宅になだれこむことになるものの、山村さん(きょうは受付や前述のアナウンスなどを手伝っていた)が明日早朝から自身の出る舞台の稽古だということで少し早めに店を出たため、そのタイミングでわたしもいっしょに山村/児玉宅へ。歩いて帰れないこともないが30分ぐらいかかるというので、山村さんの自転車で二人乗り。自転車をこいでみてはじめてそれと知れるような地味な坂道にへとへとになりながら、浄土寺真如町から元田中まで、夜を走った。

(2010年11月30日 01:18)

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