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Nov.
2011
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/ 5 Nov. 2011 (Sat.) 「洋楽事始メ」

あ、本文に書くの忘れたんで唐突だけど、この日観に来ていた片倉裕介さん(左)、と熊谷さん(右)。
吉田孝『毫モ異ナル所ナシ──伊澤修二の音律論』(関西学院大学研究叢書)。読んでないけど。

横浜、京急・日ノ出町駅から黄金町駅にかけての高架下では「黄金町バザール2011」なる長期イベントがひらかれている(/いた。6日まで)のだと行く段になり知るが、夜、その高架下新スタジオで、ミズノオト・シアターカンパニー『洋楽事始メ』を観る。熊谷(知彦)さん田中(夢)さんが出演。『洋楽事始メ』のプロジェクトは9月下旬からの変則スケジュールで、公開稽古、本公演(1)、関連トークイベント群、本公演(2) といった具合の長丁場をこなし、おそらくそのなかでもさまざまに変遷があったものと想像されるけれども、もろもろ行けず、きょうの楽日にだけ滑り込んだかたちだ。ただ、この舞台にはさらに「4年がかり」となる前史があって、その2007年10月の『洋楽コトハジメ』と、2010年1月の『ノオト/トオン』はともに観ているため、まあ、その意味で(観に行くと熊谷さんによく言われる)「皆勤賞」ということにはなる。
こちら、その『洋楽コトハジメ』(このときは熊谷さんのひとり芝居だった)を観に行ったときの感想。で、『ノオト/トオン』のほうも何か書いたようなつもりになっていたのだが、確認するとその時期日記の更新がとまっており、ただツイッターで、その会場を目前にこうつぶやいているだけで何の役にも立ちゃあしない。

@soma1104: めんどくさがって駅からタクシーにしたら思いのほか早く着いてしまった。そんな蒲田の昼下がり。
2010年1月31日 12:42 PM

観ながら、それら過去のワークインプログレスのことも思い出し、するとついアレンジや変形にばかり意識はいきがちになるものの、なかなかどうして、ふと浮かび上がる骨格はあまり変わっていないようにも感じる。「呂律の害について」(呂律はドレミ音階の輸入以前に存在した和音階のこと)と題した講演を妻にたのまれてする男は、これは伊澤修二の娘婿ということになるから遠藤隆吉でいいのか、熊谷さん演じるこの明治期の男を《屈折点》として、「オリコンチャート5位以内をめざす」と豪語するもうまくいかずにいる女(田中夢)と、そして彼女が口にする「遠い皇帝」なる存在とがひとつの線でむすばれる──ざっと言えばこれが、わたしのなかに浮かぶ『洋楽事始メ』のすがただ。
そこからは未分明の音そのものが湧き出すような音楽の源泉、すなわち〈原初〉の何者かとしてイメージされるところの「遠い皇帝」については、女の台詞にある「おじいさん」という言葉と響き合うことで、かなたの祖先をたどる一直線上──父の、父の、父の……──にそれを追いかけそうにもなるけれど、しかし唱歌に代表される近代音楽教育の系譜が伊沢修二以前にはさかのぼれないように、〈わたし〉が〈遠藤隆吉〉ごしに〈伊澤修二〉を見つめるその視線を延長していっても、その想像力のまっすぐさきに《それ以前》はなく、そこには「遠い皇帝」もきっといない。
熊谷さんが江差追分(「かもめの鳴く音にふと目をさまし」)を唄い、平松れい子さんが囃子(「ソイーソイ」)を入れる。やっぱりね、江差追分唄われちゃうとね、(個人的には細野晴臣『Omni Sight Seeing』のせいだという面が大きいとはいえ)そりゃぐっときちゃうよね、というこのわたしの眼差しにだって──あるいはそこにこそ?──きっと〈近代〉はひそんでいる(たとえば江差町のサイトにある「江差追分の由来」には、明治期に江差追分が定型化され、現在われわれの耳になじみ深いその「正調」が創造されていくさまが解説されている)
物語は円環し、すべての時間を経た未来の大地に、冒頭の田中夢は立っているかのようでもある。床には聴き古したコンパクト・ディスクがいくつも散乱し、いくつかにはすでに罅が入ってもいるが、女が無作為にその一枚を手にとるとそこに収められているのだろう音楽が流れ出し、しばし聞き入って女も〈場〉もその愉楽に身をゆだねたかと思う矢先、女は手にしたCDをおもむろにシュレッダーにかける。CDをこともなげに裁断してしまうそのシュレッダーが音を立てると同時に、鳴っていた音楽も止み、そしてまた女はべつのCDを床から手にとる──というくり返しののち、シュレッダーに溜まったCDの細片をプランターに移して、じょうろでそのプランターに水をやる。水は決定的にディスクになじまず、遍在する音の瓦礫のなかから新たな音を育てようとする直喩と捉えるならそれはどこまでも不毛な光景だけれど、それを〈供養〉とみるならばいずこかに希望の光もさすだろうか。
あるいは、とわたしは夢想する。何度も円環し、いくつものCDを裁断して、水をやって過ごすそのうちに、シュレッダーにかけても音楽が止まず、そのまま鳴り続ける瞬間がいつか来るのではないか、と。
でまあ、いまさらながら「予告編」。しかしあれだな、すげえいっしょうけんめい書いたな、おれ。

本日(5日)の電力自給率:27.0%(発電量:5.6kWh/消費量:20.7kWh)

本日の参照画像
(2011年11月 8日 10:48)

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