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Dec.
2011
Yellow

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/ 23 Dec. 2011 (Fri.) 「志らくの芝浜/『幕末太陽傳』/馬太夫一門会(仮)」

充実した一日とはこのことだ。
よみうりホールで 13時半から「今年最後の立川志らく独演会」。志らく「富久」、「芝浜」。なんとも乱暴な「大ネタ二席」だが、これはもとより(談志がなくなる以前から)ネタ出しされていたものらしい。11月13日に談春の独演会を観た翌日、こりゃあやっぱり志らくも観ておかないとなあということでこの会を見つけ、ネタ出しのことは知らずに予約、4日に石原(裕也)君とルノアールでしゃべったときにこの会に行くことを言うと、「いいなあ、『芝浜』演るんでしょ?」と逆に石原君に言われて、「え、そうなの?」と応えたのだった。当日パンフレットにあった志らく自身による説明を引けば、

 まさかこのような事態になるとは想像していなかった。年末、師匠が「芝浜」を演ずる事が出来ない状態であることはわかっていた。だからサンリビ[=サンケイリビング新聞社/引用者註]さんからオファーをいただいた時点で「芝浜」をやろうと決断した。(略)チケットは発売してすぐに800枚売れ、あともう一息で満席になるから、ツイッターで宣伝してくれと主催者から言われていた。それが亡くなった途端に一瞬にしてソウルドアウト。Yahooオークション、談志がいうところの現代のダフ屋においてこのチケットが数万円で売買されていると聞く。

とのこと。
この状況で前座が出てきて何かしゃべっても誰も聴いちゃあいないだろうという判断で、幕が上がると板付きで志らく。高座に座って頭を下げている。会場は割れんばかりの長い長い拍手。収まる気配がないので志らくがそれを手で収めて開口一番、「期待しすぎです」。
マクラの雑談でしみじみいいなあと思ったのは、「立川流は〈流れ解散〉」という言葉だ。じっさいに立川流がどうなるかはべつとして、これぞ噺家のセンスだろう。
「芝浜」、よかった。志らくをつうじて談志の「芝浜」に思いを馳せたいと欲望する層も(おそらく、ある程度には)納得させつつ、そこを踏み越えて〈イリュージョン芝浜〉の片鱗も見せた。流麗で調ったうまさでいえばいま軍配は談春に上がるのだろうが、端的に〈談志っぽい〉のは志らくだ。談春はきっと、立川談春というまたべつの名人になるだろう。談志についてまわるふたつのキーワードを使うなら、広く一般にも受け入れられたように見える〈業の肯定〉を後継するのが談春であり、比較して浸透しているとは言いがたく、談志自身もその可能性を突き詰めてはいない印象のある〈イリュージョン〉を後継するのが志らくになるのだろうと思え、〈談志的なるもの〉と、〈談志のその先にあったかもしれないもの〉とを追いかけて足を運ぶなら、それは志らくのほうになるんじゃないかとわたしには直感された。そう、まったく、いっぺん聴いただけで何を言ってやがんでえって話である。
「マクラの感じ」が似てるんだよな。意味の半分は伝えつつ、半分は自己了解のみで先に走るようなフレーズの繰り返し──きょうで言えば、「芝浜」を演り終えたあとの雑感吐露のなかで何度も口にし、そればっかり言ってる印象もあった「俺がそう決めちゃったってだけですから」がとにかく談志を思わせた。あとまあ、それこそ「存在としての談志」を継ぐとなれば、どうしたってその要素のひとつには「政治的正しくなさ」があるわけで、それもまた談春よりは志らくのほうがちかい危うさをたたえてるってことがある。
と、何やら冷静なことを書いているわけだが、きょうはまず、ここで一回泣かされたのだった。

有楽町から新宿に移動。4日付の日記に「やるかも」と書いた、近藤(久志)君と石原(裕也)君、わたしによる、遊園地再生事業団の近年の公演で映像オペ担当になった演出助手三代が集まる会だ。くわえてゲストには、近藤君が会いたがっているらしいということで牛尾(千聖)さんを迎える。テアトル新宿で本日ロードショー初日の『幕末太陽傳』デジタル修復版を堪能したあと、近藤君の案内で歌舞伎町のごく安い居酒屋へ行き、そこで食事をする。
言わずもがな、『幕末太陽傳』はじつにすばらしかった。「これ、こんなに面白かったですっけ?」とひさしぶりに見たらしい石原君がかなり衝撃を受けているほか、みな相当な余韻に浸ったまま居酒屋へ。毎回そこで泣いている気もするのだが、「十年経てば時代だって変わるぜ」と佐平次(フランキー堺)に言われて女中おひさ(芦川いづみ)が言う、「時代が変わったら、アタシだって変わるかもしれないわ」にわたしはまんまと泣く。
食事もたのしかった。ずいぶんとしゃべった。予告編上映で流れていた『ドットハック セカイの向こうに』(伊藤和典脚本の3DCGアニメーション)に石原君出てなかった?(やっぱり肌きれいだから 3DCGのなかに混じっても違和感ないよね)という話にはじまって、牛尾さんはかなり「女子力」が高いという話、来るクリスマスに石原君はいったい何をカノジョにプレゼントしたらいいのかという話など、あとは忘れたが、まあ、終電ちかくまでたっぷり話したのだった。
ところでその、「映像オペ担当になった演出助手三代の会」といちいち律儀に呼ぶのも長ったらしいので何か適当に命名できないかということになり、それでいま、まだあくまで仮称だが、「馬太夫(ばたいゆ)一門会」という呼び名が提案されているのは石原君がこの日、ちくま新書の『バタイユ入門』をもっていたからだ。
「入門するんだ?」
「そうなんですよ」
「バタイユ師匠?」
「金原亭か」
「また渋いところを選んだね」
「あの芸にあこがれまして」
「でも厳しいらしいよ、馬太夫師匠んとこは」
「ええ、そう聞きます」
と三人で道々。

きょうのひとこと

そうだ夢だよ。おれ腕がシャーって伸びたもん。(立川志らく「芝浜」)

本日(23日)の電力自給率:27.6%(発電量:8.9kWh/消費量:32.2kWh)

(2012年1月 9日 15:50)

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