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Jan.
2012
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/ 18 Jan. 2012 (Wed.) 「噺家の手帖」

直筆原稿。『噺家の手帖』見返し部分より。

17日、妻はさらに恢復。[電力自給率:29.9%(発電量:10.1kWh/消費量:33.7kWh)]
18日、『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』(Wii)をクリア。妻が。
またぞろ古本。先代(8代目)林家正蔵の『噺家の手帖』(一声社、歿後の刊行で著者名は「林家彦六」)が届いた。「民族芸能を守る会」の会報『民族芸能』において、1966年8月(4号)から1982年1月(189号)まで、「自分たちの会報『民族芸能』は、自分たち芸人のことばで」という建前にしたがって正蔵が巻頭記事を担当した、その原稿をまとめたもの。
話題は多岐にわたり、圓朝、(4代目)圓喬、(3代目)小さんといった名人上手たちのエピソードと語ったそのすぐ脇で、「トンガリ」よろしく、世間のさまざまに腹を立ててもいる。木曽の御嶽山への参拝の帰り、名古屋から「おんたけ高原」という電車に乗ったところ、全車指定席のはずが「通路に立っている人が一車に十人以上もいる。やかんだの鍋釜などの自炊道具を得意気にブラ下げて肩の巾より広いリュックを背負って──やがてその連中は通路に新聞紙を敷いて坐り込んだ」から師匠、腹の虫がおさまらない。

(略)オール指定と知りながら券なしで乗る山男も山男なら、乗せるだけ乗せれば国鉄はもうかるんだからと不問にした車掌も車掌だ。どっちもどっち──言語道断とはこのことだ。(略)
 全車指定席というのは指定券所持者以外は乗せぬという約束なのであろう。その約束を破ってよいものであろうか。敢えて石田総裁[引用者註:石田礼助、当時の日本国有鉄道総裁]のご意見を拝聴したいものである。
 なお私の云いたい事は指定券なしでは乗れない車に乗り込んで来てそれが山登りをした自分達の特権であるかの如き振舞いだ。
 世界の如何なる国でも秩序を乱してはいない。事柄は小さくとも列車内にも秩序がある。特権者の如き振舞いより秩序を乱した反省の方を先きにして欲しいと思う。
p.25 「噺家の手帖 (1-5)」1967年8月〜12月、「座席券の要らぬ座席指定車」

かと思えば、桂小金治へのこんな言葉にはつい泣かされもする。前段では「いまマスコミの寵児と云ったら談志・小金治の両君に指を折ることが出来そうだ」とふたりを取り上げ、それぞれに「一種の天才」だとしたうえで、「頼まれもせぬのにあまりにも両君を褒めちぎった形になって了ったので、最後に苦言を呈する事にする」と、小金治のほうにはこう言葉を投げる。

次に小金治君へ
 あなたは生活の安定を計ってから噺に専念すると云ったそうですが巨万の富を抱えてやる稼業じゃぁありませんよ。影と形の如くに貧乏と辛苦とにつきまとわれて暮らすのが噺家の生態です。たかが寄席芸人だ 自嘲ではありません。私達の覚悟で道標でもあるのです。
p.32 「噺家の手帖 (1-5)」1967年8月〜12月、「礼讃という言葉の裏返しを」

なかに「円生師匠への公開状」と題された一文があり、落語三遊派を名乗って協会から脱退した直後の圓生に宛てて書いている(圓生と正蔵は若手の頃から世間的にライバル視され、後年にいたっては一般に「天敵」と説明される間柄だった)。互いに若手だった頃の話から語って、あの頃は仲良く仕事をした、懐かしい思い出だと振り返りつつ、けっきょく最後は近年の言動についての非難になるのだが、そのなかで、「貴方がおとりになった賞というものは、私も及ばずながら貰いまして」と対抗し、紫綬褒章、芸術祭賞、芸術選奨文部大臣賞、勲四等瑞宝章と挙げていったあとに正蔵はこうつづける。

貴方は御前口演をなさいましたが、これは私には一寸資格がないんで、共産党の中にも知り合いがあり友達もあり、これが御前口演をやった日にゃあ非常に滑稽なものが出来上る、これは私が資格がないからやれないことですが、
p.311 「噺家の手帖 (120-126) 円生師匠への公開状」1978年8月〜1979年2月

 あははは。共産党支持の理由を訊かれて「あたしゃ判官贔屓」と答えたというエピソードは有名だが、これを読むと、そうはいってもある程度、党のイデオロギーを承知してはいたんだな。
でもって、全学連に呼ばれ、大会最終日の余興として口演した折りには、

 高座へ上ると私は開口一番「落語にはイデオロギイがありませんで……」これでみんな爆笑してくれて限られた時間が惜しまれるような和やかさだった。
p.68 「噺家の手帖 (18-29)」1969年1月〜12月、「全学連へ口演」

本日(18日)の電力自給率:31.0%(発電量:11.1kWh/消費量:35.7kWh)

本日の参照画像
(2012年1月23日 14:49)

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