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May.
2013
Yellow

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/ 8 May. 2013 (Wed.) 「ごはんばかりが炊けていく」

表題は深夜の帰り道、駅から電話で献立を訊ねたさいに妻と叩き合った軽口から。曰く、おかずはまだ何もできていない。しかもごはんはどんどん炊けていく。ごはんばかりが炊けていく。辺りが白い。それで、これは旅行先の鎌倉で撮った友人二人とのスナップなのだけれど、後日現像してみるとねえ、あなた、そこには炊いていないはずのごはんが。云々。
さかのぼって夜、五反田のゲンロンカフェへ。道々どうも眠気が差してくるので、すぐ手前のコンビニでセルフサービス式のドリップコーヒーを買ったわたしは、それを手に、これから向かう先が「カフェ」だということをすっかり忘れている。ゲンロンカフェの入っている雑居ビルの 6階へとエレベータで運ばれながら、「あ」と思う。ばかではなかろうか。持ち込みはむろん不可で、店内であらためてホットコーヒーをもらう。
お目当ての「ゲンロンスクール」は速水健朗さんによる「80年代バブル文化読み解き講座」の第1回(全3回)。今回は「W浅野=トレンディードラマ」を切り口に、〈再開発に失敗した(してきた)都市としての東京〉を浮かび上がらせるといった内容の講義。作品としては、トレンディードラマというジャンルを準備した作品としての「男女7人夏物語」(1986年、TBS)や、文字どおりの(そして唯一の)「W浅野」作品であり、トレンディードラマの代表作だという「抱きしめたい!」(1988年、フジテレビ)などが取り上げられた。
冒頭の自己紹介を聞いていたら速水さんはわたしの二つ上で、だからまあおおよそ同年代ってことになるが、当時わたしはトレンディードラマをあまり見ていなかった。「男女7人夏物語」も本放送は見ていないと思う。たんに〈ぎりぎりコドモ〉だったということだろうか。「夏物語」よりも「秋物語」のほうが記憶にあるのは、そっちは本放送を見ていたからだ。「夏物語」の本放送終了後、というか「秋物語」が開始する手前のタイミングでやっていた、「男女7人夏物語 評判編」という生放送特番(明石家さんまと大竹しのぶがスタジオでトークしつつ、名場面集や NG集を紹介するもの)は見た記憶がある。「抱きしめたい!」にかんしてはほぼ知らない。とはいえオープニングタイトルの映像には見覚えがあるから、何かの折り、ぼんやりとは見ていたのだろう。ひとこと言っておくとすれば、三上博史は大好きだった。といってもそれは、おもに『二十世紀少年読本』(1989年、林海象監督)のせいで、当時行きはじめたばかりのレンタルビデオ屋で、どういうわけだかわたしはそれを手にとったのだった。だから、ドラマでいうと「あなただけ見えない」(1992年、フジテレビ、三上博史主演)は見ていた。あと、『ORAL』という彼のアルバムも発売直後に買ったものだったさ──と、これは「80年代バブル文化読み解き講座」とはまったく関係のないただの思い出話。講座のほうは第2回で「ユーミンと達郎」を、第3回で「W村上」を扱う予定だとのこと。
会場には宮沢(章夫)さんと Uさん、白水社の Wさん、ネイキッドロフトの Oさんらがいて、イベント終了後もしばしカフェで歓談。宮沢さんに車で送ってもらって新宿。そこから妻に電話し、冒頭に書いた会話へとつながるはずだが、おそらく、そんな会話はしていないと妻は言うだろう。
きのうの「杳子」につづいて今日は「妻隠(つまごみ)」。すばらしい恋愛小説である。

「おまえは婆さんにいったい何を嗅ぎ当てられたんだ」
「だから、あなたがどこかへ行ってしまうかもしれないっていうことを」
「それは、俺に関することだろう」
「わたしには、あなたに関することのほかには、何もありません」
 二人は顔を見合わせた。どちらかがもうひと押し問いつめれば、お互いに心の内で犯したささやかな不実を、ささやかで案外に深い不実を、責めあうよりほかにないところまで来ていた。そこで二人はとにもかくにも十年間、少年少女に近い年頃から青春の出口のところまで別れずに来た男女の平衡感覚で立ち止まった。そして二人して老婆の姿を思い浮かべた。
古井由吉「妻隠」

(2013年5月10日 22:47)

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