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/ 6 Oct. 2016 (Thu.) 「右派の『歴史戦』と、歴史教科書問題」

山口智美ほか『海を渡る「慰安婦」問題──右派の「歴史戦」を問う』(岩波書店)。

@nogawam: 〈時代の正体〉 あすヤマ場の副読本問題 「朝鮮人虐殺」記述どうなる http://www.kanaloco.jp/article/204007 #神奈川新聞
2016年10月6日 14:51

7月ごろに読んだ本だが、山口智美、能川元一、テッサ・モーリス−スズキ、小山エミ著『海を渡る「慰安婦」問題──右派の「歴史戦」を問う』(岩波書店)はとても興味深かった。右派の「歴史戦」をめぐるはじめての学術書。
「歴史戦」とは右派が用いはじめた言葉で、近現代の歴史認識を争点に、日本の「名誉」を守るためになされる戦いのことを言う(まっとうな言葉に置き換えるなら要は「歴史修正主義」である)。それをもっぱら戦ってきたのは右派だが、しかし彼らにとって、それは「〈外側〉から仕掛けられた戦い」として認識/設定されているという指摘がまず重要だ。

 すなわち「歴史戦」とは、中国、韓国、および『朝日新聞』が日本を貶めるために、歴史問題で日本を叩こうと「戦い」を仕掛けている、そして今、その主戦場がアメリカとなっており、日本は対抗せねばならないということなのだろう。右派は、「慰安婦」問題に関しては国内では勝利したと考える一方で、海外では負け続けていると認識している。「仕掛けられた歴史戦」に負け続ける被害者としての日本が強調され、こうした状況をつくっているとして、国内の左派や『朝日新聞』に加え、外務省も右派の槍玉にあがり、叩かれてきた。
山口智美「はじめに──海外展開を始めた日本の歴史修正主義者たち」、『海を渡る「慰安婦」問題』p.vi、太字強調は引用者

 「私たち四人が揃って指摘したように、日本軍『慰安婦』問題に関する日本の右派の主張が国際社会に受けいれられ、『歴史戦』がその戦略的な目標を達成する現実的な見込みは存在しない」(能川元一「おわりに」p.138)という(問題の一側面についての)総括にはついつい笑ってしまうものの、しかし真の問題はむしろ(というか、もちろん)国内のほうにあって、海外における「歴史戦」の連戦連敗(それ自体も非常に迷惑な話ではあるものの)が、国内においては「『仕掛けられた歴史戦』に負け続ける被害者としての日本」という構図とメンタリティの強化に貢献してしまうその循環構造こそが、「歴史戦」をめぐるより重要な問題であるように思われる。そして、他国のなすメディア戦略/イメージ戦略によって日本は不利益を蒙っているのであり、なんとなれば孤立化を謀られている(!)のだというその空疎な物語(それが空疎であるのは、語る者ら自身の鏡像であるからだ)を培養する素地となっているのが歴史的事実についての無知(もしくは無知のままでいたいという欲望)なのだとすれば、やはり事は歴史教科書問題へと直結するのである。
わたしもまた不勉強なので、「そういうことかあ」とあらためて教えられ、おどろくのは、「教科書検定に関する新基準」てやつがどういう手なのかを説明するつぎのくだりだ。

 この欺瞞〔 1993年8月4日発表の「河野談話」にかんして「同日の調査結果発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」とする、2007年・第一次安倍内閣当時の「閣議決定」。いわゆる「スマラン事件」にかんする資料や、河野談話発表以降に研究者らによって発掘された多くの資料を無視することで成り立っている/引用者註〕は二〇一四年に導入された教科書検定に関する新基準により、歴史教育の場にも持ち込まれることとなった。一五年に検定を通過した中学校の歴史教科書で唯一、日本軍「慰安婦」問題に関する記述を行ったことで注目を集めた「学び舎」の教科書は、「閣議決定その他の方法により示された政府の統一見解〔中略〕が存在する場合には、それらに基づいた記述がされていること」とする新基準により、「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような資料は発見されていない」と付記することを余儀なくされた。
 新基準による介入はこれにとどまらない。関東大震災時の朝鮮人虐殺や南京大虐殺に関する中学、高校の教科書の記述が「近現代の歴史的事象のうち、通説的な見解がない数字などの事項について記述する場合には、通説的な見解がないことが明示されている〔中略〕こと」という、南京大虐殺などを狙い撃ちにしたとしか思えない新基準によって、後退を強いられる事態になっている。
能川元一「おわりに──浸透・拡散する歴史修正主義にどう向き合うか」、『海を渡る「慰安婦」問題』p.141、太字強調は引用者

 素朴なわたしなぞはつい、(少なくともカルロ・ギンズブルグ並の精緻な手順を抜きに)歴史なんてどうやって書き換えられるんだ? というふうに内心思っていたところがあるが、なるほどね、これは巧いというか、非常に不味いよ。
てなわけで、話は冒頭にツイートを引用した横浜市の歴史副読本問題へと還ってくる。リンク先の「カナロコ」の記事がていねいに説明してくれているので詳細はぜひそちらを読んでもらいたいが、うーん、と思わせられるのだ。どうしたもんかと。で、こんな日記(日記かよ、これ)を書いてもいるのである。まあ、続報(下記)があったとおり、横浜市ではよい判断がなされたようでそれはほんとうによかったが、事はね、それだけじゃないからね。

@ishibs_kanagawa: カナロコに速報を出しました。原案から一転、朝鮮人虐殺が記載される方向になりました。【速報】「朝鮮人虐殺」記載へ 横浜市教委の副読本 http://www.kanaloco.jp/article/204327 @カナロコ・神奈川新聞さんから
2016年10月7日 15:42

大坂の松本工房から、アンダースロー(合同会社地点)発行の雑誌『地下室』の草号が届く。まだざっと読んだだけだけど、面白いですね。ところでこの草号、最初に地点がツイートしたときにそのサイトで見た画像がこれで、

この、中央の白い部分がそのまま「背」になるのかと思い、またこれ分厚いのつくっちゃったなあ、すげえなあと勘違いしていたのだけど、ちがいましたね。そうじゃありませんでした。
本日( 6日)の電力自給率:81.2%(発電量:13.9kWh/消費量:17.1kWh)

Walking: 4.5km • 5,964 steps • 1hr 21mins 27secs • 216 calories
Cycling: 2km • 9mins 22secs • 43 calories
Transport: 33.3km • 49mins 21secs
本日の参照画像
(2016年10月11日 13:37)

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