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(1969年9月7日収録、同年10月5日放映)
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(1969年8月30日収録、同年10月12日放映)
第1シリーズ/第1回(7/7)
世界一面白いジョーク
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- アニメーション:ヴィクトリア朝時代の写真が動き出すアニメ・シークエンス、最後は男の肖像の上に、不可避的に、でかい豚が降りてくる。
- カット変わって戦時下の作戦室。二人の将校、豚の模型を押して地図上を行ったり来たりさせている。兵士、入ってきて敬礼する。
- 兵士
- ドブソンが買っておりました。
- 将校
- 食用豚、をか? 豚野郎め。
- カット変わって退屈な様子の通りに建っている郊外の家。その階上の窓へとズームイン。シリアスなドキュメンタリー風の音楽。狭い部屋の内部。ひとりの男(MICHAEL)が背を丸め、テーブルにかじりつくようにして書いている。彼のまわりには書きなぐった紙片がいくつか。カメラはその男の正面に位置し、ひげをあたっていない顔にしわを寄せながらひどく集中して書く男の姿を捉える。
- ナレーターの声(ERIC)
- この男は、アーネスト・スクリブラー[へぼ文士]…ジョーク作家である。何秒か後、彼は世界一面白いジョークを思いつくことになる…そして、その結果、彼は死ぬのである…笑いながら。
- アーネストが書く手をとめる、自分の書いたものをしばし見つめ…笑みがゆっくりと顔に広がっていき、非常に、非常にゆっくりとこらえきれないヒステリー状態の笑いへと変わっていく…足をよろつかせ、こみ上げてくる笑いにどうすることもできず、部屋の中をふらついて、ついに卒倒し床の上で死ぬ。
- ナレーターの声
- このジョークが死に至らしめたことは明らかだった…誰ひとり、それを読んで生きていることはできないのだ。
- アーネストの母親(ERIC)が入ってくる。死んでいる彼を見、小さく恐怖の叫びをあげて彼の体の上へかがみ込み、すすり泣く。と、彼の手に握られた紙片に気づき、手にとって、むせび泣きながら読む。急にヒステリックな笑いに襲われ、3フィートほど跳び上がって、落ちて死ぬ。あとは静か。カット変わって家の前に立つコメンテーター。
- コメンテーター(TERRY J)
- (うやうやしく)今朝、11時を少しまわった頃、ディブレー通りにあるこの小さな家を、喜劇が襲いました。突然の…暴力的な…喜劇。警察は付近一帯を封鎖し、スコットランド・ヤードの腕利きの警部が、今私のとなりにやってきております。
- 警部(GRAHAM)
- 家に踏み込んで、ジョークの除去を行います。
- と言っていると、家の階上の窓がガラッと開いて医師が頭を出し、ヒステリックな笑い声をあげ、死んで窓敷居から垂れ下がる。コメンテーターと警部はそれを見上げ、そうしてそんな光景はもう見慣れたかのように続ける。
- 警部
- 陰鬱な音楽の助けを得るつもりです、蓄音機レコードをかけ、同時にQ課の連中に哀歌を詠唱してもらいます…(近くに立っている厳格な様子の警官グループを指さす)こうして作り上げられた雰囲気が、万が一ジョークを読んでしまっても、私を守ってくれるでしょう。
- 警部が合図を送る。警官グループが聖書の哀歌をうなり、詠唱しはじめる。葬送行進曲が聞こえる。警部が、肩をいからせ、家の中へ敢然と歩み出す。
- コメンテーター
- 勇敢なる男が行きます。彼が生還するにせよ、そうでないにせよ、警察の歴史における最も勇ましい、最も雄々しい行動のひとつとして、このことは記憶されるに違いありません。
- 警部、突然玄関から姿を現し、どうしようもなく笑いながら、手にもったジョークを高々と差し上げる。警部、卒倒して死ぬ。カット変わって軍のトラックが暗い道路を走っていくフィルム。
- ナレーターの声
- 軍が殺人ジョークの軍事的可能性に興味を抱くのに長くはかからなかった。極秘裏に、ジョークは、陸軍省で開かれる連合軍司令部の会議の場へと急ぎ運ばれた。
- カット変わってハム・ハウスの戸口、強化ケースを手にした伝令が急いでやってくると、警備の兵士が気をつけの姿勢をとる。(ドアの注意書き:「会議中。入室禁止」)伝令、あわただしく中へと入っていく。伝令が入ったあと、ドアはふたたび閉められる。力強い大きな笑い声が聞こえ…指揮官たちが床やテーブルに倒れ込むドタンバタンという音が次々に鳴る。ドアの外の兵士は身動きひとつしない。
- カット変わってソールズベリー平原のトーチカ。カメラが覗き窓へと寄っていくと、口ひげを生やした軍幹部が不安げに目を凝らしている。
- ナレーターの声
- 軍の幹部は感動した。ソールズベリー平原におけるテストは、ジョークが、50ヤードの距離までその破壊能力の有効性を保つことを確証した。
- カット変わってトーチカの窓から覗いたショット。カメラは窓越しに遠くへとズームしていく、そこには風に吹きさらされた平原に男がひとり立たされている。彼は、眼鏡をかけた貧弱な伍長代理(TERRY J)で、見るからに寒そうで哀れである。50ヤード向こうにパンすると、ヘルメットをかぶった2人の兵士が、支え台に乗せられ布で覆いをされた黒板の両脇に、それぞれ位置している。伍長の顔へとカットが変わると、その表情は、愚鈍さと同様に、完全なる理解力の欠如を示している。トーチカのてっぺんにいる男が旗を振る。2人の兵士、覆いをはずしてジョークを伍長に見せる。伍長、よく見えないというふうにそれをじっと見つめ、書かれてあることの意味を考え、忍び笑いをして、死ぬ。それを観察していた2人の軍司令官は感動する。
- 司令官たち
- すばらしい。
- カット変わって陸軍大佐がカメラに向かって話している。
- 陸軍大佐(GRAHAM)
- 1943年の冬、われわれは、ジョークに耐えられる条件のもとで、翻訳作業に取り組み、ジョークのドイツ語版を作った。安全を期すため、1人 1語ずつ訳した。ひとりだけ2語見たものがあって、そいつは数週間入院を余儀なくされた。しかしそれ以外は順調に進み、1月までにジョークは完成した。わが軍の兵が理解することはできないが、ドイツ人には意味が分かるわけだ。
- カット変わってアルデンヌの塹壕、ジョーク旅団のメンバーがジョークの書かれた紙片を手に身を低くしている。
- ナレーターの声
- 1944年、7月8日、ジョークは、アルデンヌの戦いにおいて初使用された…
- 指揮を取る下士官
- ジョークを…言え。
- ジョーク旅団
- (声を合わせて)Wenn ist das Nunstr?ck git und Slotermeyer? Ja! ... Beiherhund das Oder die Flipperwaldt gersput!
- 英国軍の塹壕から、戦争で荒れた風景へとカメラはパンしていき、おそらくドイツ軍の塹壕があるであろう辺りで静止する。しばらく間があり、ドイツ軍の集団が狂乱状態で立ち上がる。
- ナレーターの声
- 大成功だった。戦前の英国の偉大なジョークよりも6万倍強力だった…
- カット変わってチェンバレン首相が「我らが時代の平和」の紙を見せびらかしているフィルム。
- ナレーターの声
- …これにはヒトラーもお手上げだった。
- ヒトラーの演説のフィルム。ヒトラーがしゃべっていて、字幕スーパーがつく。
- 字幕:「私の犬には鼻がない」
- 若い兵士が応える。
- 字幕:「どうやって匂いをかぐ?」
- ヒトラーがしゃべる。
- 字幕:「おそろしい!」
- ナレーターの声
- 死闘が続いた。
- カット変わってライフル銃を持った小分隊が森の中を苦労しながら進んでいく。急に彼らのひとりが何かを発見し、全員掩護のために突進するように合図をする。木陰に身を潜め、彼はジョークを読み上げる。
- 伍長(TERRY J)
- Wenn ist das Nunstr?ck git und Slotermeyer? Ja! ... Beiherhund das Oder die Flipperwaldt gersput!
- 木の上にいた狙撃手が笑いながら落ちてくる。
- ジョーク旅団
- (突撃しながら)Wenn ist das Nunstr?ck git und Slotermeyer? Ja! ... Beiherhund das Oder die Flipperwaldt gersput!
- 彼らがジョークを唱和すると、ドイツ兵は戦闘を投げ出して笑い転げ、地面に倒れ込むものもいる。
- ナレーターの声
- ドイツ軍の死傷者数は激増した。
- カット変わってドイツ軍の病院、病棟には負傷者があふれ、いまだヒステリックに笑い転げている。
- カット変わってナチの取調室。ジョーク旅団の将校のひとりが顔にライトを当てられている。ゲシュタポの将校が彼を尋問していて、その後ろにもうひとり立っている。
- ナチ(JOHN)
- どんなジョークだ?
- 将校(MICHAEL)
- 言えるのは名前と、階級と、何故ニワトリが道を渡ったかだけだ。
- ナチ
- おかしくない!(彼を平手打ちする)私はジョークが知りたいのだ。
- 将校
- 分かったよ。鈎十字はどうやって作るんだ?
- ナチ
- (ほんのしばらくおどけていたが)知らん…鈎十字はどうやって作るかだと?
- 将校
- 彼の感情を害する[魚の目を踏みつける]のさ。(その通りする。ナチ、痛みのあまり飛び跳ねる)
- ナチ
- なんて事を! おかしくない!(彼を平手打ちする身振り、もうひとりのナチが両手をパチンと鳴らして音響効果を担当する)さあジョークを教えなければぶちのめしてやるぞ。
- 将校
- 俺は拷問には屈しない、分かってるだろ。
- ナチ
- ちくしょう…面白くないやつだ。よし、オットー。
- オットー(GRAHAM) 、将校をくすぐりはじめる。笑い出す将校。
- 将校
- おい、ダメだ、それだけはやめてくれ、分かった、話すよ。
- くすぐるのをやめる。
- ナチ
- オットー、早く。タイプライターだ。
- オットーがタイプライターのところまで行き、彼ら、期待して待ちかまえる。将校、胸ポケットから紙を取り出して、読む。
- 将校
- Wenn ist das Nunstr?ck git und Slotermeyer? Ja! ... Beiherhund das Oder die Flipperwaldt gersput!
- タイプライターを打っていたオットー、爆笑して死ぬ。
- ナチ
- なんだ! おかしくない!
- ナチ、突如笑い出し、死ぬ。ドイツ軍の警備兵(TERRY G)がマシンガンを手に飛び込んでくる。将校、テーブルの上に跳び上がる。
- 将校
- (電光石火の速さで)Wenn ist das Nunstr?ck git und Slotermeyer? Ja! ... Beiherhund das Oder die Flipperwaldt gersput!
- 警備兵、後ろへよろめき、笑って卒倒する。将校、脱出する。カット変わってドイツ人の科学者たちが研究所で作業しているフィルム。
- ナレーターの声
- 一方、1944年秋、ピーネムンドにおいて、ドイツ軍もまた彼ら独自のジョーク作りを開始していた。
- ドイツ軍司令官が立派な机に座っている。彼の後ろにはオットーが立っていて、「別のゲシュタポ将校」という札をぶらさげている。眼鏡をかけたドイツ人科学者のジョーク作家が、部屋に入ってくる。彼、咳払いをしてから、カードを読む。
- ドイツ軍のジョーク作家(ERIC)
- Die ist ein Kinnerhunder und zwei Mackel ?ber und der bitte sch?n ist den Wunderhaus sprechensie. 'Nein' sprecht der Herren 'Ist aufern borger mit zveitingen'.
- 彼、読み終えて満足げである。
- オットー
- つまらん。
- オットー、ジョーク作家を撃つ。
- ドイツ人の歯科医のフィルム。
- ナレーターの声
- しかし、12月、彼らのジョークは準備完了し、ヒトラーはそのVジョークを英語で放送するよう命令した。
- カット変わって1940年代の戦時中のラジオ受信機と、不安げな様子でそれに聞き入る夫婦。
- ラジオ
- (かすれたドイツ人の声)南京豆が2つ、通りを歩いていた。そして…襲撃された! ピーナッツ。オホホホ。
- ラジオは 'Deutschland ?ber Alles' の曲に切り替わる。夫婦は互いに見合い、ラジオを見、うつろに驚く。カット変わって現代のBBC第2放送の取材映像。森林地帯の空き地にコメンテーターが立っている。
- コメンテーター(ERIC)
- 1945年、平和が戻りました。それとともにジョークも終わりました。ジュネーブ協定での特別会議においてジョーク戦争は禁止され、そして1950年、最後まで残っていたジョークがバークシャー地方のこの地に埋葬されて、二度とふたたび読まれることはなくなりました。
- 彼、「無名ジョークの墓」と書かれた墓碑を示して、去っていく。カメラゆっくり引いていき、牧歌的背景を映す。愛国的な音楽が最高潮に達する。
- カット変わってサッカーのレフェリー、ホイッスルを吹く。静寂。真っ白な画面。
- キャプション:「終」
- 再び海岸、'It's' man が浜辺に横たわっている。画面外からのびた棒が彼をつつく。へとへとな状態で、彼立ち上がり、必死に海の中へと戻っていく。
- キャプション:「『どうなるカナダ?』、原案・脚本・出演は…(クレジット)」
- アナウンサー(GRAHAM)
- 最終スコアは以下のとおりです、豚 9 対 英国二足歩行人 4。豚が決勝進出を果たし、ヴィッキー・カーと相まみえることになります。
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