HOME » Red » その他コンテンツ一覧 » 空飛ぶモンティ・パイソン、スケッチ台本の和訳 » ネズミ問題
-
-
(1969年9月7日収録、同年10月5日放映)
-
(1969年8月30日収録、同年10月12日放映)
第1シリーズ/第2回(9/9)
ネズミ問題
-
- インタビュアー
- あっちきしょう!(ピストルで画面外の何かを撃つ)
- アニメーション:今まさに撃たれたところのカウボーイからアニメシーン始まる。肉食の乳母車や、ロダンの彫刻「接吻」が奏でる音楽などがあったのち、横断幕を掲げて抗議行進をする人たちが現れる。近づいてくると、横断幕はそれぞれ次のように読める。「差別をなくせ」「ネズミは素敵(マイス・イズ・ナイス)」「ヘヘッ、トラップなんて失せちまえ」「ネズミに干渉するな」「反ネズミ法を今すぐ撤廃せよ」「キッダーミンスター[イングランド中西部の都市]青年メソジスト教徒は弾圧に憤慨する」「ネズミ人間に公平な扱いを」
- キャプション:「われわれをとりまく世界」
- 新聞見出しの大写し:「有名人ネズミスキャンダル続々」、「貴族に齧歯類の嫌疑かかる」。ネズミの皮に身を包んだ男がバッグをかぶって顔を隠し、警察署に駆け込む姿。
- キャプション:「ネズミ問題」
- カット変わって、ネズミの着ぐるみを着た男を警察官が署へ連行するところ。
- 新聞見出しの大写し:「急増するネズミクラブ」
- カット変わってクラブのネオンサインの写真たち:「キャーキャークラブ」、「かわいい白ネズミの部屋」、「カーフィリー[ウェールズ産の白いマイルドなチーズ]・ア・ゴーゴー」
- カット変わってスタジオ:地味なグレイのスーツを着た司会者。
- 司会者(MICHAEL)
- そうです。ネズミ問題です。今週の「われわれをとりまく世界」では、ネズミと人とをめぐって急増する、この社会現象に焦点をあててまいります。彼らをして、ネズミへと駆り立てるものとはいったい、何なのか。
- インタビュアー、ハロルド・ボイス、告白者に向かって座っている。告白者にはあまり照明があたっておらず、カメラの反対側を向いている。
- 男(JOHN)
- (とてもゆっくりと、痛々しい調子で)常々、ネズミになりたかったということではないんです……ただその、ちょっとした偶然です。ほんとうに突然に、ある日気づくんです……こうあることを望んでいたんだって。
- インタビュアー(TERRY J)
- いつのことですか、その……性癖といいますか……それに気づいたのは?
- 男
- はい……17歳のときだったか、友達何人かと私とでパーティーに行きました、で、その……とにかくたくさん飲んで……その内に何人かが……気づくと持ち出してて、回しはじめたんです……チーズを……で、ほんの好奇心で僕も一口かじって……そのときがそうです。
- インタビュアー
- 他にそのときはどんなことを?
- 男
- 何人かはちょっとしたネズミの扮装をはじめて……それで、衣裳をつけた途端にチューチュー……鳴きはじめて。
- インタビュアー
- なるほど。それだけですか?
- 男
- それだけです。
- インタビュアー
- それらに対するあなたの反応は?
- 男
- ショックでした。でも……だんだんに一緒にいて違和感がなくなってきて……他の、ネズミたちと。
- カット変わって司会者。
- 司会者
- 典型的なケースです。ここではAさんと仮称させていただくことにしますが、実名はこうです。
- ナレーション(JOHN)とキャプション
- アーサー・ジャクソン
ミルトン通り 32A
ハウンズロー市 ミドルセックス州
- 司会者
- Aさんのような人物をこのような生活に惹きつけたものとは、いったい何だったんでしょうか? 精神コンサルタントの先生にお越しいただいております。
- カメラが引き、精神科医が現れる。彼は「仰天華麗・カーゴルとジャネット」と書かれたプレートを自分の前に置く。
- カーゴル(GRAHAM)
- 歴史的にもよく見られる症例です。私自身、同様の症状をもった方を700例以上収集しました。すべて文書化してあります。一枚、引いていただけますか?
- ショーガール用の衣裳一式をまとったジャネット(Carol)が入ってきて、トランプカードのように扇形に広げられた症例カードを差し出す。うち一枚だけ、他のものよりも目立つようにして挟まっている。司会者、それを抜き出す。
- カーゴル
- (カードの方を見ずに)レミントンの、アーサー・オルドリッジ氏。
- 司会者
- あー、いや、びっくりです、びっくりです。ありがとう、ジャネット。(和音が鳴り、ジャネットがポーズをとって、はける)カーゴル、奇術師としてではなく、精神科医としての意見を伺いたいんですが…
- カーゴル
- (がっかりしたように)ああ…
- 司会者
- ある種の人々がネズミになりたがる理由というのは何でしょうか?
- カーゴル
- あー、われわれ精神科医の見るところでは、人口の8%は常にネズミです。言いたいのはつまり、すべての人間はそれぞれ、何らかのネズミ的な部分を抱えて暮らしているということです。はたしてどれだけの人が、自分はかつて一度もネズミに性的な魅力を感じたことがないと、やましいところなく口にすることができるか疑問です。(司会者、戸惑い気味)私は感じたことがあります。もっとも正常な青年期の人間であれば、その発育過程で、日に2、3回チューチュー鳴くような時期を経験します。一方で若者たちの場合、その行為の違法性そのものに強く惹かれるということもあります。殺人と同じです。違法とされたものには神秘的な雰囲気が生じてしまいます。(司会者、徐々に当惑の度合いを増していく)放火を考えてみてください。いったいどれだけの人が、かつて一度も公共の立派な建物に火をつけたことがないと胸を張れるでしょうか。私はつけたことがあります。(机の電話が鳴る。司会者、受話器を取るが、応答はしない)犯罪の数を減少させる唯一の方法というのはつまり、それを罪だとする法律の数を減らすことです。すべてをオープンにすることです。私はやったことがありますよ。
- 司会者
- (受話器を元に戻し)仰天華麗・カーゴルとジャネットでした。多くの人々は気づいていませんが、一度事態に順応したネズミは、社会の中でとても有用な役割を果たしています。実際、歴史上においても、現在ではネズミであったことが知られている有名な人物の例を挙げることができます。
- カット変わって浜辺にいるジュリアス・シーザー(GRAHAM)。「来た、見た、勝った」と叫び、そのあとで密やかな鳴き真似をつけ加える。ナポレオン(TERRY J)、上着にしのばせた手からチーズを一切れ取り出し、かじる。
- 司会者
- そしてもちろん、ヒレア・ベロック[フランス生まれの英国の作家・詩人・エッセイスト(1870-1953)]も。しかし、この増大傾向にある社会問題に対して…
- カット変わってバイキング・ヘルメットをかぶった男。
- バイキング(ERIC)
- 街の人々の反応は…
- 司会者
- どうでしょうか?
- 収録された「街の声」のフィルム。
- 窓清掃員(ERIC)
- 取り締まるべきだね。
- 画面外の声
- どうやって?
- 窓清掃員
- 俺は絞め殺したよ。
- 株式仲買人(JOHN)
- 株式仲買人組合の一員として言わせてもらえれば、ストローで脳味噌を吸い出して、未亡人や孤児を売って、南米の亜鉛を買うね。
- 男(TERRY J)
- まあそうだなあ、喉にスズメを突っ込んで、何だ、胃壁をくちばしで突っつかせるよ。
- 会計士(GRAHAM)
- 私は公認会計士で、退屈きわまりない人間です。
- 教区牧師(JOHN)
- そうした哀れな、不幸な人々は、彼ら自身の選択によって自由な生をまっとうするべきだと考えます。
- ポーター(TERRY J)
- かぎ棹を突っ込んで鼻孔を裂くとか?
- 男(GRAHAM)
- どうしようもない奴らなんだろ? 手のほどこしようがないんだったら、だったら俺が殺るよ。
- カット変わって司会者。
- 司会者
- 英国の一般大衆が向けている目は、あきらかに敵意をもったそれです。
- ナレーションとキャプション
- 「敵意」
- 司会者
- しかしおそらく、これは彼らネズミ人間についての知識があまり広く知られていないためと考えられます。われわれは、ある有名な、週末のネズミパーティーのひとつをフィルムに収めることができました。そこではこのような、へどの出るような変質者たちが集まっています。
- カット変わって野外の集会所(夜)。ブラインドが降ろされて、巨大なネズミの人影だけが見える。チーズの切れ端を手にし、鳴き声を上げている。
- 司会者
- Aさん、中では実際に何が行われているか、説明してください。
- カット変わってAさん。
- Aさん(JOHN)
- まず最初に、壁の下の幅木にあるそれぞれのもってる穴に入って……それから、ネズミ服を着ます……で、広間に走り出て、それからたぶん、車輪を回したりとか。
- 司会者
- フィルムの残りのシーンは、これらネズミパーティーのひとつをBBCのカメラマンがハタネズミに化けて隠し撮りしたものです。例によって、画質が鮮明でないことをご容赦ください。
- とても画質の粗いフィルム、影のようなかたち、風変わりなネズミがちらっと見える。
- Aさんの声
- えー、これは、チーズを盗み食いしています。ブリーチーズやカマンベール、ハードなのが好みならチェダーチーズとかゴーダチーズとかです。ブルーチーズフィルムを見たりということもあります……部屋の真ん中に大きな時計があって、だいたい12時50分にその上に登って、そうしてから……さあ1時になったというと……駆け下りるんです。
- カット変わってエプロンを付け、切り盛り用の大ナイフを持った大柄の夫人が入ってくる。
- 司会者の声
- あれは?
- Aさんの声
- 農家の奥さんです。
- カット変わって机を前にした司会者。
- 司会者
- あるいはわれわれは、彼らネズミ人間を裁く前に、もっと彼らのことについて知るべきかもしれません。そうでないかもしれません。ともかく、30分時間が来てしまいました。
- メエーメエー鳴く声。司会者、空中を見上げて、ぎょっとし、机から銃を取り出して空中に発砲する。羊の体が床に落ちてくる。
- 司会者
- おやすみなさい。
- キャプション:「『性と暴力』、原案・脚本・出演は…(クレジット)」
- ナレーション(JOHN)
- エピローグの結果です。2フォール対1サブミッションで、神は存在します。
ページの先頭に戻る