上野動物園にて

「オオアリクイ」と書かれたプレートが上にあれば、当然、下のここにはオオアリクイがいなければならないはずで、そうしてはじめて「名指し」と「名 指されるもの」とのバランスがとれ、このドキュメントが成立するのだとすれば、テキストのほかに提供することのできない私は、いま、非常な窮地に立たされている。(わかりやすくいえば、ここに「オオアリクイ」という名指しが文字で書かれ、上にオオアリクイの写真があれば、何の問題もないのだ。しかし、いまはそうではない。)

文章でもって、微細に、ここにオオアリクイを描写すればよいのだろうか。なぜ、その役目を画像の側が担ってくれなかったのか。

シニフィアン(記号表現)とシニフィエ(記号内容)の奇妙な形勢逆転。
「シニフィアンのふりをしたシニフィエ」?
おそらく人はこう口にするのだ。「オオアリクイはどこだ?」

[文は相馬称]