ヒトデの前で、男の子は「男の子」になる

「ヒトデは無害です。ご自由にお触りください」と、正確な言葉はわからないが案内板にはだいたいそのようなことが書かれ、となりには「女の子」がいる状況のなか、そこにヒトデがあれば、ふだんそうした意識をもたない者でさえ典型的な「男の子」の「型」が存在していたことを思い出し、そのようにふるまってしまうのが水族館という場だ。つまり、彼はそこで「平気で触ってみせる」のであり、ときにはそれを女の子のほうに差し出してみせたりもし、「ほら」などと言ったりする。いわばそれこそが水族館における「ヒトデの力学」にほかならず、さらに付け加えるならば、「ほら」と言い、差し出したそれがミカンの皮だったと気づいたときの男の子の衝撃といったらないのである。[文は相馬称]