私の勤める事務所は、やや大きいマンションの1Fにある。
「行ってきます」
私はちょっとした用のため外に出ると、
目の前はすぐ駐輪場。
特に日差しを遮る物もなく、暑い。
ふと、脇の廊下に目をやると、エンジェルのような
女児がいる。幼児独特のよたよたした足取りで
歩いて来る。ニコニコしている。
と、突然立ち止まり、言った。
「ゴルァ!!」
私の心に突然湧き起こった漠たる不安は、
この晴れ上がった天蓋を覆い尽くすかのように
黒く急速に広がっていった。
「・・・逝ってきます。」
鬱だ氏のう。と言ってみるテスト。
(相馬称)
去り際になってしかし、笑い転げられた。腹をよじられた。
声は立てずに口ばかりを大きくあけて、無音で笑われたのがかえって、耳を聾されているのかとひるまされた。声は、やはり出ていなかったと思う。コンビニエンスストアの自動ドアが開く音が聞こえて、それで彼女も笑うのをやめた。
「道端で何がそんなに可笑しかったのか。俺が何か変なことを言ったか」と、それを聞きそびれたのもおかしな話だが、笑いの起こる直前の時間にふたたび繋がりなおすような具合に、そのまま道を違えた。
別れてしばらく歩いてみると、右ひざの外側のすじが捩れをきたしているといった感じで痛みがあり、かるくびっこを引くような歩き方をしていると気がついた。まさかこの歩き方を笑われたわけではあるまい。そもそも今さっきまでは痛みもなかったし、しっかり歩いていたはずだと、だんだんに思い出されては、ことさらのようにして足を引き摺った。
「オチはないよ。オチなんてそうそう思いつくもんじゃない」と、去り際のあのときはそんなことをしゃべっていた。しかしその言葉に笑ったというのも、それもちがう。「オチなんて簡単よ。オチを大事がるからいけないんだわ」と、そのときは冷静に答えていた、その顔が浮かんで、どうでもよくなった。
(やまもと)