足熱図鑑

エッセイ

ブラックジャックになるときの注意点

 もし「男がなりたいと思う職業ベストテン」といったものがあるとするならば、必ずや上位に食い込んでくるだろうと思われるものの一つに、「ブラックジャック先生」が挙げられる。
 無免許であること、法外な値段で手術を引き受けること、寡黙であることなど、その魅力的な要素は多岐にわたるが、中でも我々が重要視しがちなのは、「ちっちゃいかわいい女の子を連れていること」である。しかし、ここで一つ注意しておかなければいけないことがある。
 あなたが「ブラックジャック先生」になろうとする場合に、そのために必要な絶対条件として「ちっちゃいかわいい女の子を連れていること」を考えるのはあながち間違っているとは思わないが、だからといって決して、「ちっちゃいかわいい女の子を連れていること」イコール「ブラックジャック先生」、ではないのである。この点は是非留意してほしい。
 つまり、あなたが「ブラックジャック先生」になろうとして、とりあえずちっちゃいかわいい女の子を連れて歩いたとしても、たぶん道行く人はあなたの意図に気付いてくれない、ということである。「まあかわいらしい、ご親戚ですか?」と声をかけてくるおばちゃんはいても、「ほう、ブラックジャック気取りかね」と声をかけてくるおじさんはいないと考えなければならない(このことは逆に言えば、街を往く、幼い女の子を連れた男に、そう声をかけてみる必要があるかもしれない、ということでもある)。
 もちろん、幼い女の子を連れて歩く前の段階としてあなたが髪の毛を白黒に染め分けていたり、あるいはその女の子に「ピノコは先生のことが好きでちゅ」と5メートルごとぐらいに大きな声で言わせるのなら、話は別である。

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