June 18th, 1998
今週の過去世物語
ちょっと面白い話を聞き及んだので紹介しよう。話というのはいわゆる「過去世(かこせ)物語」のひとつで、「過去世物語」というのはつまり、ブッダがそのいくつもの前世(過去世)において行った、数々の「良い行い」について語る仏教説話である。下に紹介する話の場合、雪山(せっせん)童子というのがブッダの過去世の姿である。以上説明。
あとは紹介するだけ。わかりやすいように、筆者が面白がっている部分を太字で示してある。では。
あるとき、雪山童子が山中で修行をしていると、どこからともなく「諸行無常、是生滅法」とうたう声が聞こえ、途切れた。世界の真理を見事に言い表した何と素晴らしいうたであるか、是非ともこのうたの続きが聞きたい、と雪山童子は考える。
と、そこに羅刹(鬼みたいなもの)が現れる。さっきのうたを歌ったのはきっとこの羅刹に違いないと考え、雪山童子はうたの続きを歌ってくれるよう羅刹に頼む。が、羅刹は「今とても空腹で、歌うことはできない」と言う。
世界の真理について知ることさえできれば、そののちの命など必要ない、と考えた雪山童子は、「では何とか続きを歌って、そうしたら私を食べてよい」と羅刹に言う。
羅刹は続きを歌う。「生滅滅已、寂滅為楽」。
うたを聞き、雪山童子は真理に触れる。そうしてのち、約束どおり羅刹に体を捧げるため、雪山童子は身を投げる。
と、たちまち羅刹は帝釈天に姿を変え、童子を手に受けとめて、素晴らしい心構えであるとほめた。