足熱図鑑

エッセイ

何も言っていないのではないか

 この間は偶然にも、本屋で新刊本の立ち読みをしていて「幻の名文」に出会った。何が「幻」かと言うと、本当はそんな文章はなかった訳で、名文と思ったのは私が思い違えた(読み違えた)からなのだが、その時私が読んだと思った文章は、大方つぎのようなものだった。

 九十七年夏場所現在、舞の海は幕内復帰を果たし、わがことのように嬉しい。智乃花は残念ながら十両にとどまっているが、怪我をおして土俵に上がるすがたを新聞で読むだけでも、何となく勇気づけられる。
 小兵の力士というのは、だいたいにおいて人気を集めるものだから、僕が彼らに対して親しみを覚える理由をことさら書くまでもないかもしれないが、あえて言うと、まず第一に、彼らが小柄であるということだ。

 どうだろうか。全く私としてはハッとさせられた。一度書いたことをもう一度書くという手法。斬新である。漸進している。これを、同じことをくり返していると解してしまうのは誤りだろう。そうではなくて、何も言っていないのである。文章そのものが、くり返すために書かれているとしか思えない。さて、どうだろうか。
 どうだろうかって、だから私が単語を一個見間違えてるだけなのだが。

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