足熱図鑑

エッセイ

今日そこへ行ってきた

 まったく気をつけなければいけないことだが、世の中には、「油断のならない本屋」というものが存在する。そうした本屋はたいてい小規模であって、多くは「流通」という概念から心持ち身を引いている。
 肝心なのは、「整理する気がない」ということである。例えば文庫だ。「それは何順なんだ」という順に並んでいる。一応、パッと見、新潮文庫は新潮文庫、中公文庫は中公文庫というふうには区切られている、ように見えるが、それは「ひっかけ」だ。中公文庫があるのはそこだけではなかったりする。油断がならない。
 まあ、そんな棚を見て、「これは思わぬデッド・ストック(死蔵在庫)に出くわすかも知れないタチの本屋だぞ」などと心を弾ませるこっちもこっちなのだが、そうしたこちらの思いを裏付けるかのようにして軒並み本はホコリだか煤だか分からないもので汚れている。いや、それは単に軒並み汚れているだけなのかも知れない。油断がならない。

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