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日向坂46「こんなに好きになっちゃっていいの?」MVが完結させるデビュー三部作の円環

  • Posted by: SOMA Hitoshi
  • September 5, 2019 11:48 PM
  • culture

 日向坂46の 3rdシングル「こんなに好きになっちゃっていいの?」の MVではメンバーが銘々普段着とドレスという 2種類の衣装を披露するなか、1stシングルから 3作連続のセンターを務める小坂菜緒だけに 3種類の衣装──茶色普段着/白色ドレス/白色ワンピース──が用意されている。ダンスの振りがないカットにおける演出の印象を単純にいえば、茶色普段着の小坂が自信なさげでおどおどしているいっぽう、白色ワンピースの小坂は自信に満ちた表情で迷いがなく、白色ドレスの小坂はその中間にあって、〈無〉と〈激情〉のあいだを往還しているという具合である。MVではこの 3種類の衣装のカットが複雑に切り替わるわけだが、そこには MV内物語における時間的な差異が感じられ、時系列に並べなおすならばおそらく、〈茶〉→〈白ドレス〉→〈白〉という順に時間が新しくなっていると思われる。

 そこで注目すべきはやはり冒頭のシーンで、舞台袖から歩いて現れ、ダンスフォーメーションのセンターの位置に付いて踊りだすまでの一連の流れが、自信なさげな〈茶〉小坂と、堂々とした〈白〉小坂とが交互に切り替わるかたちで描かれるわけだが、この冒頭の「ついに踊りだそうとする〈白〉小坂」こそが MV内物語における最新の時間だと考えるとき、そのつぎに来るはずの時間──踊りだした〈白〉小坂──を映すカットが MVにないことはとても面白い(もちろん茶色の衣装で踊る小坂のパフォーマンスは堂々としたものだが、ダンスパートを終えた小坂はすぐ不安げな表情に戻っている)

 ファンのあいだでも早くから「三部作の構成をとるのではないか」と予想されていた 1st〜 3rd、「キュン」「ドレミソラシド」「こんなに好きになっちゃっていいの?」は、軽いときめきの段階から激しい恋愛感情に至るまでの「恋愛三部作」として読める歌詞になっており、もちろん今作の MV中にもその愛の懊悩を表現しているのだろうダンスや演出は頻出するのだけれど、こと小坂をめぐる演出にかんしては、その歌詞世界からなるヨコ糸とは離れて、いわば「センター小坂三部作」とでも呼べるようなタテ糸を想起させるものとなっている。

 つまり、恋愛三部作として見れば時間的にラストに位置する今作だが、MVが描くセンター小坂三部作においては「はじまりの時間」に位置するように作られており、MVに描かれていない「つぎの瞬間」──不安と孤独にさいなまれた状態から内面的な激情の発露を経て、ついにある境地へと達した彼女(〈白〉小坂)が、舞台へと向かい、センターの位置に付いていよいよ踊りだすもの──こそが、ひょっとして改名デビュー曲「キュン」なのではないかと想像するとき、そこに三部作は見事な円環を作って完結するように思われるのだ。

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