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「 Mysticore」こそ新たなフツー:文化にあまねく呪文をかける、そのトレンドの内側

  • Posted by: SOMA Hitoshi
  • October 15, 2016 2:05 PM
  • culture

 えー、いきなりな話ですが以下、「 Salon」というウェブ媒体に掲載された「 “Mysticore” is the new norm: Inside the trend that’s casting its spell over the culture」という記事の、いわば「た自のな訳」(たいへんに自信のない翻訳)です。ひょんなことから訳すことになった/訳してみた次第で、本来わたしはまったくその任にないような話題であり、背景となる知識の持ち合わせも乏しいうえにそもそも辞書と首っ引きで訳しているような状態なので、誤訳している可能性が多分にあります。もし、この界隈に詳しい方の目に触れる機会があれば、いろいろご指摘いただければと思います。

 なお訳文においては、各事項の背景を参照しやすいよう、適宜、原文にはない外部リンクを付けてもいます(一部のリンクは原文にもあるものです)。また、記事中に出てくる「 Normcore」という言葉についてだけ先に説明しておくと、これはつまり Norm(al) + core(ハードコアなどの「コア」)で、狭義では 2014年に大流行したファッショントレンド( Tシャツ、ジーンズ、スニーカーといったシンプルなアイテムをあわせるコーディネート、「究極の普通」)のことを言います。広義=原義については、これも記事に出てくる K-Holeのドキュメントを参照ください。

「 Mysticore」こそ新たなフツー:文化にあまねく呪文をかける、そのトレンドの内側

魔法や神秘主義、オカルトといったものらがメインストリームに躍り出てきている。それはたんに一時的な流行なのか、はたまた精神的な危機の徴なのか?

 魔女の季節へようこそ。さきごろ、ブルックリン音楽アカデミーにおいては〈魔女の秘薬〉映画祭が開催され、高い評価を得ている新作『 The Witch』もそこで上映された。近ごろでは『 NYLON』のようなグラビア誌の見出しに「魔女が案内する〜」という謳い文句を見かけることがめずらしくないいっぽう、『 Sabat』──審美的ビジュアルを駆使した雑誌で、現代における魔術について探求する内容だ──のような新しい出版物が、読書家たちからも、デザインスノッブたちからも等しく注目を集めている状況もある。

 ロサンゼルスにある「 Spellbound Sky」「 House of Intuition」のような、形而上的な雑貨(儀式に用いるキャンドル、ブレンドオイル、聖なるハーブ等を想像してほしい)を専門に扱う店が、けっして新しくはないそれらの店が、急に客を集めるようになった。ブルックリンでは、アンダーグラウンドパーティの場から出発した「 Witches of Bushwick」が、魔術をフェミニズム・アートとして称揚し、「 Chromat」等のファッションカンパニーと共同制作を行うほどの社会的な集団にまで発展した。もちろん、家で手軽に霊薬を用意したい層にむけては、魔女やオカルトをテーマにしたセレクト済みの商品セットを月額課金で玄関まで送り届けてくれるサービスさえいくつかある。

 とはいえ、ただ魔女たちのみがその文化的な再流行をエンジョイしているわけではない。あらゆる魔術の作法が、そこらじゅうに溢れているのであり、ニューエイジ運動における健康志向と禅の影響を受けた低カロリーな料理が、より現代的な神秘主義の実践に取って代わられていったのと同じように、悪霊を呼び出す技、個人向けのシャーマン、強力な霊薬といったものについての会話がいまや遍在化し、あまねく場所で熱を帯びる可能性をもっている。ソーシャルメディアとフェミニズムが魔術を表面化させているそのあいだ、いっぽうでは伝統的な神秘主義、魔術、ペイガニズム1]といったものから取り出されるかたちで、新たなラインナップ──呪文をかけたり、儀式に立ち会ったり(異教的祭日から満月まで)、水晶で浄化したり──が多種多様に取り揃えられることになった。それらはビュッフェスタイルで、広い心をもった改宗者らの熱心な観衆に饗され、ファッション・健康から政治にいたるまでの、あらゆるものに白色の光を降り注ぐことになった。

 はっきりそれと指し示すことはできない、ありふれた風景のなかに潜むトレンドとして、これは「 Normcore」以来、もっとも流行っているものかもしれない。昨秋、トレンド予測グループである K-Hole──彼らが「 Normcore」という用語をつくりだした──の人たちが、文化としての水晶球を調査し、「疑念についてのレポート」と名付けられた報告書を公開した。Normcore、「同じであることのつまらなさを選び取る、ポスト真正性のかっこよさ」2]を手に入れた、この際限なくハッシュタグ化されたところのトレンドは、クリシェと化したスタイルや、攻撃的なストリートスタイルの見せびらかし──それは同化を打ち破ることで自由を約束するものだった──を否定して登場したものだった。父親のジーンズをいかに着こなすかこそが究極にイケてる最先端なのだといった雑誌記事が数限りなく通りすぎていったそのあとで、文化の振り子が揺り戻されるときが来る。K-Holeによる新たな予測は、そういった論理や「同じであること」がいまや遺物となりつつあり、人々は神秘主義へと向かおうとしている、というものだった。

 「後付け」と呼ぶにせよ「先取り」と呼ぶにせよ、この新たな局面は、ファッション、文化、政治にたいする非常に個人的かつ感情的な反応に従い、ベージュ的で Normcore的な価値観を拒否する。(ドナルド・トランプの隆盛を引き起こしているのはたしかに、論理と確かな判断とに裏打ちされた賢明な行動方針というよりも、個人的な欲求に基づいた示威運動であるように見受けられる。) この新たな哲学に「 Chaos Magic」──ポストモダン魔術のコミュニティのあいだでこの 10年、おふざけで使われていた用語である──という名を与えたうえで K-Holeは、「魔術の基本要素というのは、物事をはっきりさせたり、純化させたりすることにある」と予言する。

 くわえて、K-Holeはこうも述べる。「 Chaos Magicは、ポジティブシンキングの熱狂と同じ領域に存するものだ。しかしそれは、手に入れてみたい高級アパートメントのイメージとか、そういったものを切り貼りするムードボード作り……なんてものではない。どんなものであれ、あなたの考える信念体系に従うこと、そのことが、あなたが本来の目的に到達するための手助けとなるのだ。」 単純化すれば、K-Holeバージョンの Chaos Magicは〈考えすぎ〉にたいする解毒剤であり、全世界に向けて個人の欲求を明らかにさせる手立て──「ラディカルな DIY」──なのだ。

 このレポートは Vogueによって引用され、そこでは、Nicolas Ghesquière(自身のデビューとなった Louis Vuittonのショーにさいして、思いをしたためた手紙を観客席に添えた)や、Riccardo Tisci( 2016年春の Givenchyのショーにマリーナ・アブラモヴィッチ3]を参加させ、スピリチュアルな雰囲気をつくりだした)といったデザイナーたちの面影のなかに、Chaos Magic的なるものが見いだされている。そのいっぽうでデザイナーの JW Andersonは、そのニットウェア作品に神聖なシンボルを縫い込むことで、より文字どおりにそのトレンドを引き起こした。

 ソーシャルメディアを覗いてみよう。Instagramを #witchで検索すれば、2,375,000件もの投稿がヒットする──たいして #kardashian4]は 1,630,000件。つづいてブティックを見てみれば、タロットデッキが最新ファッションにおいて復権をはたしていることがわかる──それはもっぱら「 The Wild Unknown」などの小売店のおかげであり、「 The Wild Unknown」の技巧を凝らしたカードは、ニューヨークの「 ABC Home」といった上層階級向けのメッカから、カリフォルニアのベニス・ビーチにある「 Skylark」のようなインディーズ系の中心地にいたるまで、全土にわたって扱われている。K-Holeは正しかった。「 Mysticore」は、いまや新たなフツーなのだ。

 でも、なぜ? 今年はじめの論説のなかで「 N+1」が人々に思い起こさせていたのは、戦後期におけるニューエイジ思想にたいする不信感であり、それはテオドール・アドルノがおこなったホロスコープ批判── 1952年のニューヨーク・タイムズ紙に載った占星術コラムを精読したもの──が先駆であったものだ。アドルノの考えるところでは、占星術は政治的な無抵抗を助長する迷信的習慣であった。

 あるいはアドルノは、いい線いっていたのかもしれない。シンプルな格言を想起しよう。将来の見通しがきかないとき、人々は自分のまわりの世界に意味をもたせるために、信仰に救いをもとめるものである。

 しかしながら今日では、伝統的な西洋の宗教はその魅力を部分的に失っており(ピュー研究所の最近の調査によれば 2014年時点において、多くの成人、とりわけミレニアル世代5]が自身について宗教的な所属先をもたないと述べている)、神秘主義や魔術、魔法といったものがその精神面での欠如を埋めるものになっている。

 「自然や、クリーン・リビング運動、そして地球的な価値といったものとそれは相関関係にある」と、『 Sabat』誌の創設者で編集者の Elisabeth Krohnは言う。「トランプでもグローバル資本主義でもインターネット文化でも、どれのせいにするのでもいいが、とにかくもっとシニカルでない世界、非線形をしていて、神秘的でもある何かを自分が切望しているのだと感じる」。

 いま起きているこの神秘主義思想のうねりはまた、現代のフェミニズムが押し進めている個人のエンパワーメントという意識とも直接に結びついている。「象徴としての魔女はすぐさま共感を呼び起こす。なぜならそれが第四波フェミニズムの到来を告げているからだ」。『魔女とは何か』の著者であり、ニューヨーク大学のオカルト人文科学会議の共同創設者である Pam Grossmanは言う。「わたしたちはいま、力、リーダーシップ、美、価値といった言葉が言うところのものを、わたしたち自身の言葉で捉え直そうとしている。そしてそのとき魔女は、女性の力の究極のシンボルとなるのだし、魔術を執り行うことでそのエネルギーに接続することができる。何千年とつづいた性差別や抑圧をもちろんひとまとめに正していくにあたって、いますぐ必要なそのエネルギーに」。

 Instagram(や、Tumblrや、Snapchat)の聖堂を訪れてみると、いかにして mysticoreが、ハリー・ポッターの影響を受けて育ったネット上の独学者たちの世代に訴えかけているかがわかりやすく見てとれる。ソーシャルメディアにおいては、何かしら太古のものに触れるという考えが、個人的で、そのひとにきわめて特化されたものとして不意に手が届くようになるのであり、それは Chaos Magicという考えそのものと非常によく一致するのだ(そもそもがそれは、トレンド観測をしないことで具体化されていた)。

 「トレンドに惹かれたり、一時の好奇心から神秘主義に首をつっこむ人たちはじっさい、より『熱心な』実践家たちから何も学ばないものだと言われるけれど、わたしはそうは思わない」と、Grossmanは言う。「たまたま買ったそのタロットデッキが、より深い探求の道への入口になるかもしれないし、一ヶ月やそこらでほっぽり出すかもしれない。どっちにしたって、それで誰も傷つくわけじゃない」。

 昼夜平分時を祝う儀式の計画のため、アレイスター・クロウリー6]のあまり知られていない文章を探しているのであれ、はたまた水晶に合うネイルの色を探しているだけであれ、いずれにしろあなた自身が選び取った mysticoreな冒険は、全世界のトレンドのなかでおよそ比肩するものがない柔軟性を与えてくれるだろう──唯一比肩するものがあるとすれば、大自然によって柔軟にさせられるアスリージャー7]ぐらいか。どこからはじめようかと思っているひとがあれば、Vogueのもうひとりのお気に入りで、近ごろは「 Floss Gloss」とネイルポリッシュ商品でコラボレートした、「 Hoodwitch」の Bri Lunaなどどうだろう。

 Grossmanの見立てによれば、mysticoreは、すぐさまどこかへ消えていってしまうものではない。「魔術は〈カタチを変化させるもの〉」と彼女は言う。「それがどんな形態をとるかは問題ではない。ただ絶え間なく動くものでありたいと魔術は願っていて、そうであることを知っていてもらいたいと願っている」。

“Mysticore” is the new norm: Inside the trend that’s casting its spell over the culture - Salon.com

1:ペイガニズム

自然崇拝や多神教の信仰を広く包括して呼ぶ言葉。当記事ではむしろ積極的/主体的にこの語が選び取られているようにも思うが、元来は差別的なニュアンスを含む侮蔑語。

2:「同じであることのつまらなさを選び取る、ポスト真正性のかっこよさ」

Normcoreの概念を最初に提唱した K-Holeのレポート「 YOUTH MODE」にある一節の引用になっている。同レポートにある元の一文は、" Normcore moves away from a coolness that relies on difference to a post-authenticity coolness that opts in to sameness." で、「 Normcoreは、ひととちがうことに寄って立つかっこよさから、同じであることのつまらなさを選び取る、ポスト真正性のかっこよさへの移行を促す。」ってなところか。

3:マリーナ・アブラモヴィッチ

(1946- ) ユーゴスラビア出身のパフォーマンスアーティスト。特に、自身の肉体に暴力を加える過激なパフォーマンスで世界的に知られる。と、ウィキペディアより。

4:#kardashian

おそらくはキム・カーダシアン Kim Kardashian (1980- ) のハッシュタグ。アメリカのテレビパーソナリティ、女優、モデルで、社交界の名士。著名人ということ以上のここでの人選の意味はわからない。

5:ミレニアル世代

2000年代に成人をむかえた人たちのこと。

6:アレイスター・クロウリー

(1875-1947) イギリスのオカルティスト、儀式魔術師、著述家、登山家。詳しくはウィキペディアをどうぞ。

7:アスリージャー

athleisure(アスリージャー)は athletics(アスレチックス)と leisure(レジャー)を組み合せた合成語。こちらもファッショントレンドのひとつ。

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