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2014/3/15(土) 深夜寄席@新宿末廣亭

  • Posted by: SOMA Hitoshi
  • April 12, 2014 2:41 AM
  • rakugo

新聞記事 春風亭朝也
風呂敷 古今亭志ん公
反対俥 三遊亭亜郎
幾代餅 柳家小権太

 朝也をのぞき、ほかの 3人はみな 3月下席から真打に昇進する面々で、二ツ目の勉強会である「深夜寄席」への出演はこれが最後となるという、いわば卒業公演。

 いや、客席の笑いの量でいえばもっとも沸かしたのは亜郎だったろうし、最終的には小権太が、なんとなく「たっぷり聞いたな」という充足感を客席に与えていたように思えるものの、しかし、とにかく今夜は志ん公の「風呂敷」だった。わたしにとってはそれに尽きる。これまでに接した志ん公の高座のなかで、いちばんだったときっぱり言いたいくらいだ。

 何しろ映像で残っているということが大きいと思うが(わたしはあれを何度見たかわからない)、「風呂敷」というと、どうしたって志ん生だ。志ん公の「風呂敷」はもちろん志ん五の型だが、とはいえ、「風呂敷」にかんしては志ん五も志ん朝もあんまりいじっていないという印象があって、構成を整えこそすれクスグリのほとんどは志ん生のものをそのまま残しているから、基本的には志ん生のそれということになる。そして、志ん公もまた、それをほぼそのままに演る。

 そのまま演るとなれば、まさに〈志ん生のフレーズ〉としてこれ以上なく知られるギャグたち──女心のアカサカ、シャツの三つ目のボタン、上げ潮のゴミなどなど──が〈突出〉してしまうのを避けるのは並大抵のことでなく、「上なぞり」の印象を与えてしまえば噺は成立しない。たとえば 2012年5月30日、ノラや寄席の「桃月庵白酒独演会」に助演したさいの、志ん公の「風呂敷」はそうだった。「いっしょうけんめいなぞっている」以上のなにものでもなかった。

 しかし驚くべきことに、今夜は志ん生の話形をそのまま演って、〈噺として成立していた〉のだ。

 むろんすべてのクスグリが成立していたわけではなく、課題はまだまだあるが、ともあれ前半部がすこぶるよかった。【助けをもとめにきたかみさんと兄ぃ】【兄ぃとその女房】【へべれけの亭主と兄ぃ】という 3つの対話ブロックからなる「風呂敷」だけれど、そのうちの【助けをもとめにきたかみさんと兄ぃ】がとてもよかった。

 いい出来の高座はえてしてこちらに〈気づき〉をもたらしてくれるのであり、「ああ、これはこういう噺なのだ」という大掴みの理解が、ひとつのセリフなり調子なりに乗って一挙に与えられる瞬間がある。今回でいえばそれが、

「古人曰く」ってんだ、なあ? 「古人曰く」

のところだった。「女を戒めるいい言葉」たちを引く手前に兄ぃが差し挟むこのセリフは志ん生・志ん朝にはなく、志ん五が独自に付け足したものだと思うが、このセリフのよさ=くだらなさ=兄ぃのだめさ加減が、今夜、いよいよ志ん公の調子によってわたしに迫ってきた。笑った。ひさびさに落語で笑った。このくだらなささえうまく出れば、「女三階に家無し〜おでんに靴を履かず」はその流れに乗って、(相手に伝わる伝わらないに兄ぃが頓着しているとは思えないのと同様、客に言葉が伝わる伝わらないは二の次で)ただもう発せられればそれでいいくらいだ(そしてじっさい、今夜はそのように発せられて成功していたように思う)

 たいして後半の 2ブロック、とりわけ【兄ぃとその女房】のブロックはまだ課題を残す。【助けをもとめにきたかみさんと兄ぃ】と【兄ぃとその女房】のあいだにどうも断絶があって、兄ぃのキャラクターに一貫性がないように感じられてしまうのだ。いや、もっと根源的には、〈でも、はたして一貫してないといけないのだろうか〉ということはあるのだけれど、そうだとして、一貫性など必要ないその地平に行くためにもまず、もっとうまくなってもらわないといけないのである。

 そして、おそらく【兄ぃとその女房】のブロックがもっとよくなったそのとき、【へべれけの亭主と兄ぃ】のいわば祝祭空間はきっと、より祝祭的になるにちがいない。

 ところで、ついでに志ん生の「風呂敷」のマクラだけれど、小野小町のくだり──「ヤダヨッ。なんてなこと(言って)。ホオオオゥっなんてなこと言ってな」とか、「奥州極楽行きの門前でもって倒れちゃった。ふぅうぅうーなんてんで」とか、とにかく再現しようのない、志ん生の存在ありきのマクラ──を志ん朝がカットするのはまあしょうがないとして、

われわれのほうへ出てくるのは、どういうわけで一緒ンなってんだかわからないすな。へんなとこでな、できちゃったりなんかするンですな。「ああーおぅ、帯がほどけてます」。「どうもありがとう」。これで一緒ンなったりなんかするんですからな。

のところなんかは、うーん、志ん公さんあたり、なんとかやりようがある(復活させようがある)んじゃないかと思うが、どうだろうなあ。

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