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May.
2009
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/ 15 May. 2009 (Fri.) 「『朝霞と夕霞と夜のおやすみ』へ」

夜、「FUKAIPRODUCE羽衣」の妙ージカル『朝霞と夕霞と夜のおやすみ』を観に、こまばアゴラ劇場へ。「羽衣」は前作『ROMANCEPOOL』以来で二度目。その前作につづき、熊谷(知彦)さんが出演している。先日更新されていたブログによれば熊谷さんは、自分に「出鱈目」が不足していると指摘されたことを悩んでいるという。終演後に声を掛けたときもその話題になり、「出鱈目は(きょうの僕に)ありましたか?」とわたしに訊いてくるその顔がわりと切実なものだから、ひとつここで(その場ではうまく答えられなかったから)ともに考えてみようと思うのだけど。

終演後、観にきてくれていた冨士山アネットの長谷川さんから開口一番
「熊谷さんは、出鱈目さがないんですよねぇ。」とダメを言われる。
長谷川さんにはワークショップの時にも似た様なことを言われたので、
実に進歩の無い奴だと、結構へこんでしまう。
「出鱈目男女」を歌っている奴が、出鱈目じゃないなんて、全く話にならないじゃないか。

翌日の目標を、密かに「出鱈目さ」に絞り、
本番前に糸井さんにも稽古をつけてもらい、芝居をどんどん大きくしていく。
うん。大きくなってきた。これで出鱈目に繋がるかどうかは分からんが。
出鱈目不足 - 熊谷知彦blog 『何でもひとり』

 「目標を密かに『出鱈目さ』に絞る」というきまじめさがすでに出鱈目からは遠いのではないかとか、「大きい」ことがはたして出鱈目でしょうかといったことはもちろんあるものの、とはいえ、まず思うのは、このさい出鱈目はべつにいいんじゃないかということである。「羽衣」の魅力がはたして「出鱈目さ」にあるのかということはひとまず措いて、仮にそこに表現すべき出鱈目なテクストがあるとしてだが、すでに出鱈目であるそれを「出鱈目に演じ」たら、面白くもなんともないのはつまり「マイナスの掛け算」の原理である(「マイナス掛けるプラス」もしくは「プラス掛けるマイナス」はマイナスを大きくするが、「マイナス掛けるマイナス」はプラスに転じてしまう)
 と同時に、ここで言う「出鱈目」は、おそらくある種の「軽さ」のことを指しているのではないかと思えるのだけれど、わたしには、「熊谷さんに軽さがない」とは到底思えず、しかしその軽さがうまく舞台に表れないときもあるのだろうと想像すれば、その差を生んでいるのはきっと、ほんのささいな、「ちょっとしたこと」じゃないかと思えるのである──なにしろ、かつて、かの「岸建太朗伝説」につづいて宮沢(章夫)さんが書こうとしたものこそ(けっきょく書かれはしなかったけど)、こうした「熊谷知彦伝説」であるのだから。

きょう、熊谷の芝居がよかったと思い、その原因を探ったところ、伝聞によれば、熊谷はきょうの本番中、「京都公演のこと」で頭がいっぱいだったという。そんな先のことを考えてもしょうがないだろう。いま、ここを大事にしろと思ったが、「京都のこと」というのが、舞台のことだったらまだいいが、京都公演があったあと、「どうやって東京に戻るか」について頭がいっぱいだったそうだ。先のことを考えるにもほどがある。でも、そのほうが、熊谷はもしかしたらいいのかもしれず、毎日、なにか考えることに集中していてくれればいいのかもしれなかったものの、まだ東京の本番があるというのに、もう京都から帰ることで頭がいっぱいになっている熊谷に、笑った笑った。本番直前、みんながきょうの舞台のことで集中しているときに、迷惑になるかもしれないなどと一切考えず、次に熊谷が出る舞台のチラシを配って宣伝しているという、常識的な人間の枠を越えた無神経な熊谷から、わたしはもう目が離せない。こいつはいったい、なにものだ。だから芝居がいいんだろうな。熊谷には助けられている。少し前、「岸健太郎伝説」を書いたが、「熊谷知彦伝説」も書かなくてはいけないのではないかと私は思ったのだった。
「不在日記」2005年1月21日付

 とそんなことを思っていてしかし、わたしは『朝霞と夕霞と夜のおやすみ』のサウンドトラックCD(劇場受付にて販売)のなかに、すぐれて出鱈目な熊谷さんを見つけたのだった。サントラに収められているうちの4曲目「picnicsongs」における熊谷さん(セリフ部分)は、ものすごくいい。正直、きょうの舞台のそれよりもよかった。これぞ「出鱈目」じゃないすかとわたしは熊谷さんに言いたい思いだ。あるいは熊谷さんは、「これ、とくに工夫もなくふつうにやってるだけだけどなあ」と言うのかもしれないが、わたしにとってはこれこそが「出鱈目」である。もちろんCDは声だけだが、このセリフを発している者の身体もこのとき、まちがいなく軽やかであるにちがいないと想像されるような、ことによったら何も考えていないのではないかというほどのしなやかな発話が、そこには収録されているのだった。
というわけでわたしは、サントラを買い、また、『ROMANCEPOOL』のDVDも買ってしまった(ちなみにCDもDVDも、劇場のみでの販売らしい)。白状すれば、『ROMANCEPOOL』の「夕暮CDショップ」以来の、わたしは鯉和鮎美さんファンでもある。

(2009年5月19日 04:29)

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