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Feb.
2017
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/ 21 Feb. 2017 (Tue.) 「爪を切りたいが、背中がかゆい」

ロビン。2005年3月。

早尾貴紀『ユダヤとイスラエルのあいだ──民族/国民のアポリア』(青土社)

早尾貴紀『国ってなんだろう? あなたと考えたい「私と国」の関係』(平凡社)

ええとまず、タイトルには何の含意もない。
爪を切りたい(と思いつつ、つい億劫に思って切っていない)ことも背中がかゆいことも事実だが、両者は何ら、逆接で結ばれるような影響関係にはない。それぞれが、それぞれに独立して事実であるというだけだ。ここでの接続助詞「が」は逆接なのではなく、連続して想起されたふたつの事柄の、時間的前後もしくは共存を示すだけのいわばたんなる接続である(この用例として、広辞苑第6版では今昔物語集巻16の「巳の時ばかりなりけるが、日も漸く暮れぬ」などを挙げている)。書くことがまとまらず、思いつくままのタイトルだけを保存して一夜が明け、いま、両者にあたかも因果関係がある──背中を掻くにあたっては爪が伸びていたほうが存分に掻けるので、爪を切ることを躊躇している──かのように読めることに気づいて、驚いているのはわたし自身だ。
と、そのことを、なぜこんなにこまかく説明しようとしているのかはわからない。説明すればするほど、余計それ──爪を切りたいが、背中がかゆい──が〈成句〉のように響きだし、何だったら故事のひとつも持っていそうな貌をしはじめるのを感じるが、繰り返すように何の含意も含蓄もないのである。おそらく、爪については「切れ」、背中については「掻くな、何か塗れ」と、妻は言うだろう。
『ユダヤとイスラエルのあいだ』 から、『国ってなんだろう?』 へ。そしてまた『ユダヤとイスラエルのあいだ』に戻る。行ったり来たり読書。
『ユダヤとイスラエルのあいだ』は 2008年3月、『国ってなんだろう?』は 2016年2月の刊行で、両者のあいだには 2011年3月11日が横たわる。そのことは『国ってなんだろう?』の内容に決定的な影響を与えているが、とはいえ、そこに断絶があるわけではない。より広い話題を扱った概説的内容であることや、若い読者(中学生)を仮想して書かれていることが直接の要因で、当然といえば当然かもしれないが、『国ってなんだろう?』のほうが── 3.11を経たあとであるにもかかわらず、また、パレスチナをめぐる状況もまったく改善が見られないままさらに 8年が経過しているのだったが──少しだけ、読後に〈希望〉の持てる書かれ方がされていると感じる。逆に言えば、それほど、『ユダヤとイスラエルのあいだ』の読後に差す光は薄いのだ。

 加えて、とくに日本におけるバイナショナリズム認識は、欧米圏からの輸入という形で間接的になっているだけでなく、「あのサイードが言っていた」ということが根拠となってしまっている。もちろんサイード本人は、自らがルーツをもち深くコミットしていたパレスチナの現状に対する冷徹な認識のうえに立ち、かつ、思想史的な可能性を紡ぎ出そうとしていたのであり、その発言の意義の大きさには疑いはない。だが、サイードを語ることがパレスチナの現状を語ることと混同されがちな日本の知的消費構造のなかで、ナイーヴにバイナショナリズムを称揚することは、現実的コンテクストも歴史的コンテクストも欠いている。
早尾貴紀「終章 イスラエル/パレスチナにおける国家理念の行方」、『ユダヤとイスラエルのあいだ──民族/国民のアポリア』、p.290

 さらに、ここなんてもう、批判されているのは見事にわたしだ。わたしのことだよ。
けれども、つづいて『国ってなんだろう?』を読み、ふたたび『ユダヤとイスラエルのあいだ』に戻ってきたときには、不思議とその〈希望〉の光量が増しているのを感じるのだ。つまりは目が馴れて(理解が深まって?)、より多くの光を感取できるようになったということかもしれない。
より多くの光を感取できるようになった目に、じつに感動的に飛び込んできたジュディス・バトラーの言葉がある。いや、同書のその論文はバトラーの思想に可能性を探りつつも、イスラエル問題を扱うときのバトラーの〈らしくなさ〉を批判的に検討したものなので、こうして一部分のみ取り出し、「さすがいいこと言う」的に扱ってしまうのはアレなのだけれども、ちょっとご容赦願って。

〔略〕バトラーはただ、それを「決定不可能な状態のまっただなかに、アンビヴァレントな不安のなかにとどまりたいという欲望」と呼ぶことができるかもしれない、と言う──「何か新しいものが現れるまで互いにそばに寄り添い力を合わせていられるために」
早尾貴紀「第六章 ジュディス・バトラーの『躊躇』」、同書、p.192、太字強調は引用者。というわけでバトラーの言葉については孫引きなわけだが、ここで引かれているのは「 Jews and the Bi-National Vision」という 2004年1月のエルサレムでの講演で、その末尾の部分にあたる。

あー、この稿、つづくと思います。いや日記なんでね、そりゃつづくんですけども。

Walking: 6.4km • 9,466 steps • 1hr 35mins 4secs • 303 calories
Cycling: 3.8km • 19mins 9secs • 83 calories
Transport: 126.3km • 3hr 27mins 48secs
本日の参照画像
(2017年2月24日 11:15)

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