/ 21 Apr. 2017 (Fri.) 「米朝一門会 / 最近の図書館事情 / 罅自慢」
■わたしも、もっとこう欲のない日記を書きたいものだと、何年かぶりの(桂)ざこばの高座に接したいま、しみじみ思っている。
■というわけで、今日も今日とて仕事を放り、向かった先は新宿・紀伊國屋ホール。桂米朝一門会。
強情灸 桂りょうば
代書 桂雀太
一文笛 桂ざこば
〈仲入り〉
蛸芝居 桂米團治
鹿政談 桂南光
りょうば、雀太はともにはじめて聞く。りょうばは枝雀の長男で、2015年に遅まきながらざこばに入門。雀太は雀三郎の弟子(枝雀の孫弟子、米朝のひ孫弟子)で、2016年の NHK新人落語大賞を本日の演目「代書」で受賞している。
■とにかくよかったのがざこばだ。ざこばの「一文笛」は 2012年、米朝一門夏祭りのときに大阪で一度聞いていて、そのときも「いいじゃん、ざこば」と思ったものだが、今夜はさらに上回ってよかった。いや、構成力という点で言えば 2012年のときのほうがより入念だった印象があるのだが、そうした、「こう話してやろう」というような欲がいよいよ消えて、今夜のようにただただ真っ直ぐに演られてしまうとなれば、これはもうどうもこうもなくて、こちらにはなす術がない。
よく知られるように「一文笛」は師匠・米朝の作った新作(設定は明治で、擬古典)なのだが、ざこばの「一文笛」にわたしが泣かされてしまうのは、そこに〈師匠・米朝との対話〉を聞くからでもある。おそらくだがざこばの「一文笛」においては、「ワイこれ(スリ)しかでけへんねん」という秀がざこば自身に、彼を諭そうとする兄貴が米朝にそれぞれ重ね合わされていて、ざこばは秀のセリフを借り、「こういうふうにしか落語ができない自分」というものを、圧倒的に正しく大きい師匠の背中にむかってぶつけているように思われる。そしてさらには年々、そのぶつけ方にもざこばのなかで変化があるのだろうと想像されるわけだが、2017年の今宵はもうざこばも米朝も渾然として、だからそのぶん、サゲの「じつはワイ、ぎっちょやねん」には前にも増して、〈米朝のドライさ〉が降りてきていたように思われる。
■米團治もよかった。こちらもたぶん 2012年以来だと思うが、着実によくなっている──と言いますか、何より楽しそうに演っているさまが、よりダイレクトに高座のよさにつながるようになってきている──と感じられ、うれしい出来だった。
■そして南光。南光の「鹿政談」も二度目で、前はこれも 2012年、弟子・南天の襲名披露興行の折りの、ヒザ(トリのひとつ前)での一席だった。そのときの「鹿政談」が、とにかくすげーよかった。いっぽう今夜はトリで、そのぶんフルボリュームといった内容の高座である。総合点ではそれでも 2012年の高座に軍配を上げたい──それはまあ、ヒザという出番が要請する〈軽さ〉と、それでもなおかつ弟子の披露目にあたって、あとに控える弟子に真摯に勝負を挑むというような〈意気〉の、両面がともに奏した出来だったのかもしれない──が、もちろん、今夜は今夜で存分に聞き、とても気持ちよくハネる。総じて、とても幸福な夜だったと想像していただきたい。
はい。ぼくならもう、大丈夫です。米朝も枝雀も、不在としてそこにいるのではもうなくて、何ていうんでしょうか、みんないましたから。ぼくも落語も大丈夫です。かれらがいますから。そんな夜でした。米朝一門会。ほんとうによかったです。
2017年4月22日 0:10
■今夜誘っていっしょに観にいったのは「ポ姉」こと、近藤(久志)君の奥さんのシノハラさん。「なぜ、おれじゃないんだ」と近藤君は言うかもしれないものの、まあ、しょうがないじゃないか。しばらく前、ポ姉がそのツイッターで、映像を見てはまったらしい枝雀について連投していたのも誘った遠因としてある。で、ポ姉のアカウントにはいま鍵がかかっているのだけれど、許可を得たので、今夜の感想ツイートをいくつか引いておきたい。というのも、けっこういいこと言ってる(うれしいこと言ってくれてる)からだ。たとえばこんなの。
噺を進めていく身ぶりや落語の所作というものとは異なる、アクロバティックな身体のリズムや、脱線していくように見える動きが、それでも落語の噺のなかで成立する。それが力強かった。枝雀のグルーヴ感に垣間見えた闇、危うさは枝雀だけの身体性なのだなともまた思う。
2017年4月21日 23:26
前後の流れからするとたぶん、直接的には雀太の高座についてのツイートと思われるが、なるほどね。で、南光についてがこれだ。
みんなお初だったけれど、南光はもうなんでしょうね、トリプルアクセル、4回転、トリプルアクセル、4回転、4回転、4回転、トリプルアクセル、トリプルアクセル…みたいなずっと高度な芸のその連続性のなかに南光がいて、で、突然の「はぁ!?」に10.00!!!!!!!!!ってなるやつでした…
2017年4月21日 23:39
いやまあ、「突然の『はぁ!?』」ってのが何を言ってるのか、噺を聞いてないと(聞いてても?)わからないでしょうが、これ、終演後の会話ですでに意気投合済みなんだけど、ポ姉もまたわたしとまったく同じ鑑賞ポイントにめざとく注目していてくれたのであり、それがとてもうれしかった。「ずっと高度な芸のその連続性のなかに南光がいて」というのも、「うんうん、そうそう、そうなのよ」と握手を求めたくなるところであって、今度ぜひ、笠木(泉)さんも交えて一杯やりたい。
@po_nee うん。そうなんだよ。僕が代わりに「ありがとう」と言いたくなる感想だけど、でね、南光はね、ぜったい5回転飛べるんだよ。それを観るために僕は通ってる。(4回転半は観たことある。)
2017年4月22日 0:04
ちなみにわたしのリプライにあるこの「 4回転半」というのは、2014年6月、立川生志の会に助演したときの「胴切り」を指している。これがすごかった。「まさか」とお思いになるかもしれないが、その夜、わたしは「胴切り」(荒唐無稽な、非常にくだらない噺)を聞きながら、その多幸感ゆえに泣いたのだ。
■てな感じで、いい加減長いのでそろそろ切り上げようと思うが、ついでにもうひとつだけ、見巧者によるこんな指摘も拾っておきたい。そうそう、そうでしたねという、ほんの些細な内輪ネタ。
りょうばさんの噺には「関口の隠居はん(=ざこば師)」が、ざこば師匠の噺には「前田という名前の医者(=枝雀師)」が登場。さりげなく一門の結束を感じることができ、きっと米朝師匠も笑顔で見ておられたに違いないと、暖かい気持ちで会場を後にしました。
2017年4月21日 23:37
■会がハネて、iPhoneの機内モードを解除したところで南波(典子)さんからのリプライを知る。前回の日記で図書館について、「装幀がない」とうっかりしたことを書いたわたしへの指摘だった。
@soma1104 本のカバー、今はほとんどのところで外してないと思いますよ!オビや箱も、「これはないとまずい」というものは(それをどうやって判断するのかは難しいところですが)残しているんじゃないかと。お近くに図書館があったらぜひ覗いてみてね。私が行ってみたいのは武蔵野プレイスです。
2017年4月21日 21:05
@otocin_t そうなんですね。あんまり利用しないのと、しても古めの本を借りることが多いためか、知りませんでした。あとまあ、行くときはたいがい目的が定まってて、あんまり見て回ってないからか。武蔵野プレイスというと、武蔵野にあるんですね?笑
2017年4月21日 22:01
@soma1104 はい、武蔵野です。むさしさかいです。
2017年4月21日 22:24
そうだったかあ。
前回の日記でその冒頭に『薔薇の名前』からの引用を置いたのはつまり、「図書館といえば」って感じで想起されたのが『薔薇の名前』だったからだが、ことほどさように、わたしの「図書館」理解はそこ( 1327年、教皇ヨハネス22世時代の北イタリアにあるカトリック修道院)で止まっているのであり(笑)、最近の事情となればはなはだ暗い。行ってみようかなあ、武蔵野プレイス。
■ちなみにいま、利用する機会のあるのは立川市の中央図書館というところだが、そこの貸出システムの簡便さには少なからず衝撃を受けた。基本セルフサービスで、登録者カードのバーコードを読み取らせたのち、本は無造作に、所定の枠のなかに何冊でもまとめて置く。それでもう書名だの冊数だのが認識されて、タッチパネルの案内を二、三押すうちに貸出完了なのだった。なんてこったい。
■ iPhoneの画面の罅についてはとくに進展なし。罅そのものはこころなしか進行しているように見えなくもないが、アップルストアに行く時間も取れず、そのままにしている状態。
■で、罅についてここで報告したところ、リスナーのひとりからは右の写真が送付されてきた。これはなんだろう、「罅自慢」か。右がたぶん iPhone5で、左の「 SONY」とあるほうは Xperiaだと思われる。iPhone5の完膚なき罅も見事だが、それと並べられることで伝わる、Xperiaのほうの「けっきょくやっちまった感」も捨てがたい。何よりの問題は、いまこの写真を撮っているところの iPhoneはどうなのかということだが、それがまだ無事であることをわたしは祈ってやまない。
■でもなー、割るんだろうなー、そのうち。このひとは。けっけっけっけっ。
Cycling: 2.8km • 16mins 26secs • 61 calories
Transport: 68.8km • 1hr 20mins 35secs
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