/ 18 Jan. 2018 (Thu.) 「事件です / 不思議なことが起こる」
■「ピー+ニボル」の組み合わせはよく見られるが、「ポシュテ+ニボル」はとても珍しい。はじめて、かもしれない。
■ツイッターで知って、朝里樹『日本現代怪異事典』(笠間書院)という本を買う。「戦後から二〇〇〇年前後にネット上に登場する怪異まで日本を舞台に語られた一千種類以上の怪異」を「類似怪異・出没場所・使用凶器・都道府県別など、充実の索引付き」で紹介するという、在野の一個人の手になるとは思えないような労作。ぱらぱら読むだけでも充分に面白い。
■冒頭から順に読んでいて、笑ったのは「赤い糸・青い糸・白い糸」という怪異だ。五十音順の収録なので冒頭しばらくは「赤いナニナニ・青いナニナニ」といった調子の類話がわんさかと続き、「もうわかったよ君たち(全国の小学生諸君)」という気分を味わっているところへ満を持して登場する「赤い糸・青い糸・白い糸」は、ちょっとだけあのボルヘスの紹介する古代中国の動物の分類法を想起させもする、そのいい加減さが小気味よい。
ある学校の男子トイレに現れるという怪異。そのトイレで二番目の個室に入ると蜘蛛が現れて、赤、青、白のどれかの糸が垂れてくる。このとき赤い糸に触るといつの間にか四番目のトイレに移動しており、青い糸に触ると人間の顔をした蜘蛛が二匹現れ、白い糸に触ると不思議なことが起こるという。
朝里樹『日本現代怪異事典』、p.10
急に起こることの範疇が広いよ「白い糸」。
■都道府県別の索引ではもちろん、とりあえず出身地の怪異など探してみるわけだが、すると「茨城県下館市」があって、紐付けられているのは「ヨダソ」という怪異である。これも事典の記述が面白いのだが、まずはそのオリジナルとなっていると思われる「
愛知県名古屋市のある小学校に現れるという怪異。白いマスクに野球帽を被ったおじさんという姿をしており、放課後に一人残っている児童の肩を叩き、児童が振り向くと「俺は与田惣だ! さかさまだ!」と怒鳴って鎌を振り上げ、児童を連れ去ってしまうという。これを回避するためには名前の「よだそう」を逆さまに読み、正体を暴くしかない。
常光徹著『学校の怪談 3』に載る。「よだそう」は逆に読むと「うそだよ」となり、この怪異の存在が虚構のものだったことがわかる、という怪談になっている。 同、p.406
いっぽう下館市の「ヨダソ」はこうだ。
四時四十四分四十四秒にブランコを見るとヨダソという怪異が襲ってくる。ヨダソは逃げても逃げても襲ってきて、最終的には背中をナイフで刺されてしまう。
同、p.405-406
うん。類似の話が豊富にあるというなか、なぜこれだけが別立ての項目として扱われているかについてすでに察していらっしゃる方もあるかと思うけれど、事典の解説はこう続く。
学校の怪談編集委員会編『学校の怪談スペシャル 3』に、茨城県下館市の小学生からの投稿として載る。恐らく与田惣から派生した怪異だと思われるが、与田惣にあった逆さから名前を読めばその正体がわかるというトリックが通用しなくなっているため、より凶悪な怪異となっている。
同、p.406 [太字強調は引用者]
あははは。これはあれだろう、たんに下館の子どもがバカ──もしくは、話を最後まで聞かない──ってことじゃないのか。なにせ、出典として挙げられている『学校の怪談スペシャル 3』は「与田惣」の項にも出てくるのだが、同じ本で取り上げられている投稿でも「香川県木田郡」からのそれはきちんと「よだそう」の話になっており、木田郡の子どもたちの伝聞能力の高さを物語っている。
■ちなみにその『学校の怪談スペシャル 3』は 1997年の本なので(合併により下館市が「筑西市」と名が変わるのは 2005年)、投稿者はわたしの 10コ下ぐらいという計算になるか。うーん、よだそう、聞いたことあるような気はするなあ。「うそだよ」のオチがあるバージョンのほうで、なぁーんとなく聞いたことあるような気がする。でも、「四時四十四分四十四秒」という時刻の定番はもちろんのこと、「ブランコを見ると」っていう出現条件のフレーズにもうっすら覚えがあるような気がし、となると、ヨダソも与田惣もわたしのなかでは渾然としてしまう。話の仔細も思い出せないくせに「誰が言ってたっけかなあ」といきおいまかせの回想に手を伸ばせば、そこに当然のように大写しになるのは同級の「ホリエ君」の顔だけれど、それについては、ぜったい偽の記憶もいいところだと思う。
Cycling: 2.7km • 15mins 45secs • 59 calories
Transport: 70.6km • 1hr 32mins 38secs
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