/ 14 Feb. 2018 (Wed.) 「指月の譬 / 没するんかい」
■今日は背すじがよい。悪くない。
■さて。
かつて詩がわからないと思っていたころ、月を指している指を見ていた。
2018年2月12日 22:23
この「直角」さん(ご本人は存じ上げません。その一連のツイートのみによって一方的にお見かけし、かねてより勝手に惚れている者です、当方は)のツイートに端を発したネットサーフィンは意外な波を乗って、山本伸裕さんの「龍樹の『空』思想から親鸞の『方便』論へ : 『戯論』prapañcaと『智度言』prajñaptiとの差異について」という論文にまで至り、こりゃちょっと山本さんの本(『「精神主義」は誰の思想か』など)で清沢満之のことを知ろうかとさえ思っているというのは、当の直角さんにしてみれば「は?」という話かもしれない。
■「月を指している指」というこの比喩(指月の譬)は仏教説話のほうに由来しているらしく、たとえばお釈迦様が入滅(死)にさいして弟子に語った教え、といったかたちで語られるのだが、そこにおいてはつまり「真実(月)」と「言葉(指)」とが対比されている、と解説するのが通例のようだ。
お釈迦様は入滅される際、弟子たちに、教えの内容を依りどころとし、言葉に依ってはならないと仰いました。
教えの内容を依りどころとし、言葉に依らないのは、言葉は教えの内容を表しているのであって、言葉がそのまま教えの内容ではないからです。それをわからずに、言葉だけに依って、教えの内容に依らないのは、人が月を指して教えようとするときに、指ばかりを見て月を見ないようなものなのです。
教えの内容に依らず、言葉に依るとはこれと同じことです。言葉(指)そのものが教えの内容(月)ではないのですから、言葉に依ってはならないのです。
「説話とたとえを知ろう①『指月のたとえ』」『季刊せいてん』no.110、月を指す指 – 浄土真宗|LOGからの孫引き
この〈素朴〉な説明にたいしてすぐさま思い起こされるのはもちろんソシュール以降のいわゆる〈言語論的転回〉であり、ことに(直角さんのいう)「詩」でいうならば、言葉そのものに注目を集める「異化」の作用によってこそ詩的言語は日常的言語から区別されるのだ──詩においては指こそがすなわち月であるのだ──と主張したロシアフォルマリズムの詩人たちである。そして、前掲の山本さんの論文は「指月の譬」を直接取り上げてはいないが、同じように言語活動を副次的で下位のものとする理解──煎じ詰めればそれは、〈不変の実体〉を想定し、その周辺に〈仮の事象〉を配置する二元論である──のもとに読解/解説されてきた龍樹(ナーガールジュナ)の『中論』を丹念かつ素直に読み直して、不変の実体なるものがあるとする言説こそが龍樹のいう「
■もちろん、仏教の教義云々とはべつのところで、それ自体がすでに一篇の詩であるような直角さんのツイートは美しいわけだが、そのことがまた、いわば〈ツイートそのものが月である〉という事態を呼び起こしてもいる。たとえば直角さんが傍らにいて、月を指さすなら、どうしたってまずわたしはその指を、月を指さす直角さんを見てしまうだろう。そこにおいて月を指さす直角さんと月とは不可分(未分節)であり、その総体が美しいからである。
■さて、仏法に言寄せた直角さんへの告白はこれくらいにするとして、インドの龍樹と日本の親鸞とをつなぐ重要な思想家として中国僧の
出家して、龍樹系の四論(『中論』、『十二門論』、『大智度論』、『百論』)や『涅槃経』の仏性義を学んだ。ところが『大集経』(だいじっきょう)の注釈の最中に病に倒れ、不老長寿の術を茅山の陶弘景について学び「仙経」を得て帰る途中、洛陽で菩提流支に出会い、仏教にこそ不死の教えあると諭され、『観無量寿経』を授けられた。そこで、曇鸞は「仙経」を焼き捨てて、浄土教に入り研鑚に勤め、并州の大巌寺に住し、後に石壁の玄中寺に入り、さらに汾州平遥山の遥山寺に移って没した。
曇鸞 - Wikipedia、2018年2月11日 (日) 01:16 UTCの版、「生涯」の項、太字強調は引用者
没するんかい、っていうね。
■では最後に龍樹の言葉を。ハッピーバレンタインデー。
滅することもなく、生じることもなく、途切れることも、永続することない。また、一つの意味しかもたないこともなく、あらゆる意味をもつこともなく、来ることも、去ることもない。そのように、「戯論」の寂滅した、縁によるものごとの浄らかな生起を教え導かれた仏陀世尊に、私はあまたの説法者のなかでも、最も尊い方として敬意を表する。
龍樹『中論』
Cycling: 2.4km • 12mins 21secs • 53 calories
Transport: 70.3km • 1hr 26mins 37secs
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